研究実績の概要 |
上皮成長因子受容体(EGFR)の活性型遺伝子変異症例には、そのチロシンキナーゼ阻害剤(EGFR-TKI)が奏効するが、通常1年程度で獲得耐性が出現する。EGFR-TKI治療前(耐性前)後(耐性後)の生体試料から耐性機序の解明を行い、バイオマーカーを指標にした医療(Biomarker Based Medicine)を確立することが本研究の大きな目標である。 EGFR変異陽性患者に対してEGFR-TKI (gefitinib)が投与され、奏効した後に耐性となった5名の患者の再燃腫瘍を解析し、獲得耐性として、EGFR T790Mを2例、小細胞癌への転化を1例認めた。小細胞癌への転化症例について、免疫組織化学的に神経内分泌のマーカー(NCAM, Synaptophysin)を検索した結果、TKI治療前の癌組織において、ごく少量の神経内分泌産生細胞を有していることを見出した。すなわち耐性となる素因が早い時期から存在し、このような原発癌の多様性が、癌治療の耐性機序に関与していることを示唆した。さらに、TKI治療前と耐性後の癌組織を次世代シークエンサーにて解析した結果、TP53の変異率の増加を認め、コピー数の増加を5q, 9p, 14q(AKT1), 17q(ERBB2), 19pに、コピー数の低下を8qに認めた。 粘液産生性肺腺癌の次世代シークエンサーによる遺伝子解析において、K-RAS G12D変異とともにLKB1変異I161Fを検出した。正常組織を対照としたコピー数多型(CNV)解析にて、FGFR3、NOTCH1、AKT1、LKB1の4遺伝子のコピー数の有意な相違を認め、各々1コピーに減少していた。LKB1を含む19pでは、16MBに及ぶ広範な欠失が推測された。さらにRB1の位置する13qのコピー数の低下が認められ、K-RAS変異例ではCDKN2A/2B遺伝子変異を伴うものが多いという報告と一致する。 以上から、薬剤の耐性機序には、癌の多様性が、大きく関与していると推察され、多様性と遺伝子変異の量およびDNA修復の観点から、解析を推進する予定である。
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