研究課題/領域番号 |
25462183
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
河野 光智 慶應義塾大学, 医学部, 講師 (10276272)
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研究分担者 |
羽藤 泰 慶應義塾大学, 医学部, 助教 (10365281)
大塚 崇 慶應義塾大学, 医学部, 講師 (40306717)
重信 敬夫 慶應義塾大学, 医学部, 助教 (50626702)
渡辺 真純 慶應義塾大学, 医学部, 教授 (90201227)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 人工酸素運搬体 / ヘモグロビン小胞体 / 呼吸不全 / 肺損傷 |
研究概要 |
呼吸不全に対して人工呼吸器治療が確立されているが、ventilator induced lung injuryを惹起するなどの問題がある。人工酸素運搬体として開発したヘモグロビン小胞体(HbV)はヘモグロビンを内包させたリポソームであり、輸血代替として実用化が期待されている。粒径が小さいため微小循環改善効果を有し、P50の調整により酸素親和性も高められる。HbVを輸液すると損傷肺において、より多くの酸素を取り込んで組織に輸送し、新しい呼吸不全の治療となることが期待できる。本研究の目的は種々の肺損傷モデルにおいてHbV輸液による酸素化改善効果を評価することである。平成25年度は肺損傷モデルとしてラットに肺切除術を行い、循環血液量の30%を脱血する肺切除周術期出血モデルを作成した。また、観血的動脈圧モニタリングを行い、HbV投与が循環動態に及ぼす影響を評価し、有効性を検証した。【方法】ラットに麻酔をかけた後、頚動脈と頸静脈にカニューレを挿入する。動脈圧連続モニタリングを開始する。経口挿管し、人工呼吸器に接続する。開胸し左肺を切除する。頸動脈カニューレより全循環血液量の30%を脱血し、脱血量と等量のHbV分散液を頸静脈ラインから輸液する。閉胸し手術を終了する。【結果】肺切除後のラットの平均血圧は105±30mmHgであった。30%の脱血により45±15㎜Hgまで低下したが、HbVの投与により速やかに血圧は上昇し回復した。投与後10分での血圧は120±20mmHgであった。その後も血圧は1時間以上維持され、人工呼吸器からの離脱も可能であった。【考察及び結論】ラット肺切除周術期出血モデルにおいてHbVを投与した群で血圧が維持され循環動態が安定した。HbV投与は外科的侵襲に加え、呼吸機能が著しく低下する肺切除手術時の出血においても有効である可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
肺損傷モデルとしてラット肺切除周術期出血モデルの作成に成功し、ヘモグロビン小胞体の投与により、循環動態が安定した。ヘモグロビン小胞体投与の有効性を示唆する結果の一部が得られた。
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今後の研究の推進方策 |
ラット肺切除周術期出血モデルでは輸液を変え以下の動物群を作成する。 ① Lactate Ringer溶液群、②デキストラン群、③ヘモグロビン小胞体分散液、 ④高酸素親和性ヘモグロビン分散液、⑤空小胞体群(ヘモグロビンを内包しない小胞体) 測定項目も以下のように拡大する。①観血的動脈圧測定(輸血終了後3時間)、②血算、③動脈血ガス分析、④血中乳酸値、⑤末梢血液生化学検査 CRTNN、BUN、LDH、AST、ALT、T.Bil、Na、K、Cl、HMGB1、⑥摘出組織;肝、腎、脾、肺、心のHE染色、HIF1-alpha免疫染色(各組織の低酸素状態の評価)。 また、エンドトキシンやブレオマイシンを投与し、急性或いは亜急性~慢性肺損傷のモデルを作成する。人工酸素運搬隊であるヘモグロビン小胞体で循環血液量の5~30%を交換輸液し、動脈血酸素分圧と組織酸素分圧を経時的に測定する。ラット保存血を輸血した群などと比較する。酸素分圧の改善効果が高いヘモグロビン小胞体輸液量の至適条件を決定する。P50を9 Torrに調整し酸素親和性を高めたヘモグロビン小胞体でも同様の評価を行う。蛍光色素を添加したヘモグロビン小胞体を投与し、肺細毛血管の通過状況を観察し、傷害を受け狭小化した血管をヘモグロビン小胞体が通過することを確認する。病理学的検討を損傷肺及び他の主要臓器(心臓、肝臓、脾臓、腎臓)で行い、低酸素誘導因子HIF1-alphaで免疫染色し、臓器の低酸素改善を評価する。反復投与実験や大型動物で検討を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
ヘモグロビン小胞体は使用期限があり、それに合わせて動物実験を行ったので、当該年度中に購入した実験用動物が予定よりも少なかった。 当該年度に使用しなかった分を加えた額を次年度の実験用動物の購入に充てる。
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