受容体型チロシンキナーゼanaplastic lymphoma kinase(ALK)の融合遺伝子を有する肺癌は、ALK阻害薬であるクリゾチニブが著効を示す。しかし、他の分子標的薬と同様に薬剤耐性例が経験され、長期の生命予後改善は得られていない。そこで我々は、ALK転座肺癌に見られる、チロシンキナーゼ群以外の側副経路を探索し、セカンドラインの治療標的を同定することを目的とした。 1.臨床検体において解析結果を検証するために、肺癌組織の初代培養法を改良し、症例の生細胞の保存を進めた。 2.ALK転座肺癌に共通した分子経路を同定するために、国際的ながんのゲノムデータベースであるTCGAに登録されている肺癌500症例のSNPアレイ、全エクソーム、全RNAシークエンス、マイクロRNAアレイの解析情報、臨床情報を用いてオミックス解析を行った。約250例の肺腺癌のRNAシークエンスデータからALKの各exonの発現量をプロットし、発現差によりALK転座症例をスクリーニングした。同定したALK転座群(class I)10症例 と、対照としてALKのエクソン全体が発現亢進している非転座発現亢進群(class II)7例の発現データのクラスタリング解析を行った。その結果、class Iおよび IIにおいて2倍以上の発現差を認めた遺伝子はそれぞれ468個、349個であり、共通するものは22遺伝子のみであった。class Iに特異的な遺伝子と、これまでに見出した自験例のアレイCGH解析による標的領域とに重複する遺伝子を絞り込んだ。このうちの1つの遺伝子は、ALK転座症例の共通欠失領域に座位し、ゲノム欠失とDNAメチル化により発現が低下していた。ALK転座陽性肺癌細胞株H2228においてこの遺伝子を過剰に発現させると、細胞の増殖は有意に低下した。またこの遺伝子の発現が低下すると有意に予後不良であったため、ALK転座肺癌における新規の治療標的候補分子と考えられた。
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