研究実績の概要 |
悪性胸膜中皮腫は元来血流の豊富な胸膜に発症し、その進展に腫瘍の酸素化状態が強く関与していることが知られている。我々は術前化学療法前後に行ったFDG-PET 集積の変化率が悪性胸膜中皮腫の手術成績を鋭敏に予測し、治療法選択に有用であることを報告した。このことは、悪性胸膜中皮腫の進展、悪性度獲得のメカニズムにおいても、低酸素応答因子であるHIF-1 ,Glut-1などが関与していることを示唆している。本研究は悪性胸膜中皮腫における、化学療法前後での低酸素応答機構に関与するバイオマーカーの発現について検討し、その低酸素バイオロジーの解析を行うことを目的としている。当科で採取・保有している約44 例の悪性胸膜中皮腫症例の術前化学療法前後のホルマリン組織切片を用いて低酸素応答関連分子のHIF-1 ,Glut-1 ,VEGF, NOS ,TGF ,ANP ,Endothelin 1 , Vimentin , MMPs ,Cathepsin D , PFKFB3の発現、化学療法感受性評価のためにTS, DHFR, GARFT, FORL1, FPGS, GGH, ERCC発現、更に癌抑制遺伝子であるNF2 geneによりその発現を調整されるMerlinについて、免疫染色による定量的評価を行った。HIF-1 ,Glut-1に関しては予後や再発との相関関係を認めなかった。免疫染色による化学療法前のDHFR発現量スコアが180以上の症例で、その後に行われた切除術後の予後が有意に良好であり、再発も少なかった。Merlinについては免疫染色スコアが34%の検体で低値であった。化学療法前の生検検体と手術後の手術検体でのMerlinの相関はR2=0.5126と良好であった。Merlinが化学療法の効果予測因子になることが示され、現在FAK阻害剤を用いた臨床検体で、その効果予測因子になるか否か解析中である。
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