本研究の目的は、脳細動脈における細胞外マグネシウム濃度増加による血管拡張作用の解析を行い、くも膜下出血後のearly brain injuryと脳血管攣縮に対するより有効な治療を確立することにある。 SDラット(雄、12-20週齢)より摘出した脳の中大脳動脈から穿通している細動脈(レンズ核線条体動脈(直径30~100μm))を摘出し微小ガラスピペットを用いてカニュレーションし、細動脈の両端を固定して、顕微鏡下に細動脈に生理的内圧を負荷し血管径を観察した。 結果、マグネシウムの拡張作用は内皮損傷血管で抑制されず、その血管拡張作用機序において血管平滑筋カリウムチャンネルの内、カルシウム感受性カリウムチャンネルが関与していることが明らかとなった。またその血管拡張作用は、くも膜下出血後脳血管攣縮における攣縮誘発因子(血管収縮物質)の内、エンドセリンのみで軽度抑制された。くも膜下出血後のearly brain injuryモデルの脳細動脈では、生理食塩水注入モデルとsham surgeryモデルと比較して血管緊張(収縮)が強いことが明らかとなった。 以上から、脳細動脈におけるマグネシウムの血管拡張機序に血管内皮は関与していないと考えられ、その拡張作用には血管平滑筋カルシウム感受性カリウムチャンネルが関与していることが解明された。更にくも膜下出血後脳血管攣縮における攣縮誘発因子存在下でもその拡張作用は認められた。くも膜下出血後の脳血管攣縮機序においては、血管内皮機能は抑制または障害された状態と考えられている。しかしマグネシウムは脳細動脈において平滑筋に依存した拡張作用を示したこと、攣縮誘発因子存在下でも拡張作用を示したことから、脳血管攣縮に対するマグネシウムによる治療の有効性を一部示唆したと思われ、これらの結果はくも膜下出血におけるマグネシウムの臨床使用において基礎的な背景を補うと考えられた。 これまでの研究成果を、論文発表した。
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