研究課題/領域番号 |
25462220
|
研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
茂木 正樹 愛媛大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (20363236)
|
研究分担者 |
堀内 正嗣 愛媛大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (40150338)
岩波 純 愛媛大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (90624792)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | 糖尿病 / 認知機能 / 血液脳関門 / レニン・アンジオテンシン系 / AT2受容体 |
研究概要 |
糖尿病に起因する認知症に対してレニン・アンジオテンシン系に着目し、予防的アプローチを目指した検討を進めている。血液脳関門(blood brain barrier: BBB)に関しては、ペリサイトの培養とin vivoでの老化について、BBBのin vitro実験系についての準備、認知症における糖尿病の影響に関しては、糖尿病マウスにおけるアンジオテンシンII2型(AT2)受容体の刺激による認知症の予防効果についてなどについての研究を進行させた。 ペリサイトの培養については現在のところ安定した培養条件が得られておらず、脳切片における老化の検討においても、ペリサイトの老化を示す染色結果などが得られていない。ペリサイトに着目した実験については現在再検討を行っている。BBBのin vitro実験系については、市販キットを用いて実験を開始している。これまでに我々が見出してきた糖尿病によるBBBの破綻がアンジオテンシンIIの抑制薬によって軽減されるメカニズムについて、内皮細胞・ペリサイト・アストロサイトの3種細胞によって構成される疑似的なin vitro BBBモデルを用いて今後詳しく検討していく予定である。 一方、糖尿病によって誘導される認知機能低下にAT2受容体刺激薬が抑制効果を示すことがわかってきた。糖尿病マウスであるKKAyにAT2受容体刺激薬、コンパウンド21を投与することにより、モリスの水迷路によって評価した認知機能が改善傾向を示すことやNMDA型グルタミン酸受容体拮抗薬であるメマンチンとの併用で効果が強くなること、また脳内のアセチルコリンの濃度を有意に上昇させる効果などが見出された。 今後はAT2受容体がBBBに与える影響などに着目しながら、さらに糖尿病における認知機能の低下に対する新しい予防に向けた研究を進めていく予定である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
血液脳関門(blood brain barrier: BBB)におけるペリサイトに着目した検討は、ペリサイトの安定した培養方法が確立できていないことや、ペリサイトの老化がBBBの機能不全に影響すると仮定して老齢マウスを用いてペリサイトの老化を評価した検討においても、染色が予想外にうまくできていないことなどから、進展が遅れている。 一方で、BBBのin vitro実験系については徐々に準備を進めており、内皮細胞・ペリサイト・アストロサイトの3種細胞によって構成される疑似的なin vitro BBBモデルを用いることにより、細胞間のインターアクションに着目した検討が進められるものと考えている。 さらに、糖尿病によって誘導される認知機能低下にAT2受容体を刺激することにより抑制効果が見られることがわかってきた。糖尿病マウスであるKKAyにAT2受容体刺激薬、コンパウンド21を投与すると、モリスの水迷路によって評価した認知機能が改善する傾向が示唆された。さらにNMDA型グルタミン酸受容体拮抗薬であるメマンチンと併用することで有意な認知機能改善効果が得られた。このメカニズムとして、コンパウンド21の投与により脳内のアセチルコリンの濃度を有意に上昇するが、メマンチンと併用するとさらに血流や興奮性シナプス後電位の増加、神経伸長因子であるbrain-derived neurotrophic factor (BDNF)の発現増強効果などが見出された。 以上の理由から、進展が遅れている面もある反面、順調に進んでいる面もあることから、当初の計画程度の進展とした。
|
今後の研究の推進方策 |
アストロサイトの培養に関しては、安定した培養条件が得られていないことから、in vitroの検討系はBBBのキットを用いた研究に重点を置いていく。ただ、遺伝子欠損マウスを用いた機能解析のためにノックアウトマウスなどからのアストロサイトの培養法の確立も可能になるようプライマリーの培養についても引き続き進めていく。 糖尿病マウスの認知機能低下におけるBBBの破綻のメカニズムについては、今回認知機能改善効果を示す可能性が示されたAT2受容体の作用にも着目して検討を進める。AT2受容体刺激により一酸化窒素(nitric oxide)が増加して微小循環が改善することが報告されているが、糖尿病によって誘導される小血管病による微小循環不全がAT2受容体刺激によって改善され認知行動時の微小血管レスポンスの増大に貢献しているかどうか、またBBBの破綻においてもAT2受容体刺激に効果があるかについて詳しい検討を進めていきたい。 さらに、我々は糖代謝そのものにもAT2受容体刺激が改善効果を示し、その作用にperoxisome proliferator-activated receptor (PPAR) γが関与していることがわかってきており(Ohshima K., Mogi M., et al., PLoS One. 2012;7(11):e48387)、BBBにおけるPPARγ活性化作用にも注目した検討を行っていく予定である。
|