近年の低侵襲手術の需要の高まりより、脳動脈瘤に対する新治療であるコイル塞栓術の普及が加速している。しかしながら、新技術を用いた医療は技術習得までラーニングカーブが存在し、期待される成績が得られないことがある。加えて、新技術を習得する機会は限られており、より安全な治療を求める社会的な潮流の中、モデルを用いたトレーニングの重要性は高い。 われわれは、平成25年度より効果的な脳動脈瘤コイル塞栓術のトレーニングモデルとトレーニングプログラムの構築を目的として、大型動物であるブタを使用して実験を行ってきた。大型動物を使用する利点は、ヒト脳動脈瘤コイル塞栓術に近似した手術感覚が得られる点であった。 トレーニングモデルはシリコン製脳動脈瘤をブタ総頚動脈-総頚静脈間に接続する方法で作成した。この際、困難だったのはブタ生体血管とシリコン製血管の接続であった。これは接続部に血管撮影用大口径シースを使用し、簡便で、かつ、血流やカテーテル操作性を制限しない方法の開発で解決した。さらに、接続シリコン製動脈瘤に患者脳血管3次元情報より3Dプリンターで作成した脳動脈瘤を用いる工夫を行い、より実際の手術感覚に近いモデルを開発した。 平成27年度は以上のモデルを用い、脳血管内治療研修医にトレーニングを行った。被トレーニング医に行ったサーベイでは、手術手順の理解、手技に対する慣れ、手術機器の習熟度、トレーニング前後の手技の改善度は上がった。しかしながら、トレーニング機会が1-2回に限られ、トレーニングを繰り返すことによる練度改善は困難であった。このため、実験計画当初の評価項目であった実際の手術時間短縮を認めるには至らなかった。 この反省より今後はよりアクセスが簡単なトレーニングシステムの開発が必要と考えられた。具体的には患者脳血管を3Dプリンターで再現した非生体トレーニングシステムの構築が有用と考えられた。
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