研究課題
当該研究者は、ヒト骨髄間葉系幹細胞(hMSCs)が代替経路型マイクログリア(およびマクロファージ)とのコミュニケーションにより脳損傷を抑制することを見出している。このコミュニケーションは、神経損傷後の神経保護のみならず神経修復・再生に対しても大きく寄与している可能性があるが、その本体は全く不明である。そこで当該年度は脳虚血モデルを用い脳内のマイクログリアの神経保護・再生への役割の解明,hMSCsとマイクログリアの作り出す微小環境どのような因子により制御調節されているかを調べた。hMSCsとマイクログリアのコミュニケーションはマウスマイクログリア培養株BV-2を用いIFN-γによる刺激を行いマイクログリアの活性化をhMSCsが修飾できるかを調べた。さらにマウス一過性前脳虚血モデル動物の脳海馬領域を取り出しそれらのホモジネートをhMSCsの培養培地内に暴露し虚血により誘導されてくる脳内の因子がhMSCsの遺伝子発現を変動させるかをヒト遺伝子マイクロアレイチップを用いて網羅的に探索した。IFN-γにより刺激されたBV-2はiNOSの発現およびNOの産生を増加したりgp91などの活性酸素産生に関わるタンパク質の発現を誘導するが,hMSCsとの共培養によりそれらの応答は有意に減少した。この抑制は加熱処理や凍結融解により変性させたhMSCsでは再現できずhMSCsがBV-2を修飾することにより起こる応答であることが分かった。さらに,hMSCsは一般的に継代により分化・増殖能を低下することが知られているがBV-2に対する修飾作用はhMSCsは骨・脂肪細胞への分化能を失っても維持され,hMSCsの分化能と異なる制御機構を持つことが示唆された。一方,脳虚血脳ホモジネートを暴露したhMSCsは虚血をしていない脳のホモジネートを暴露したhMSCsと比べケモカインの発現に大きな違いが認められた。
3: やや遅れている
当該年度は培養によるマイクログリアとhMSCsの関係およびex vivoによるhMSCsの虚血応答因子の同定および確認をin vivoレベルまでは発展させる予定であったがin vivoの結果が得られなかった。その理由として,本年度より教育に関わるエフォートの増大があり,計画当初に比べ研究にかけるエフォートが取ることができなかったことがある。しかし,本年度の経験により次年度は時間的配分などが明確になったために本年度の遅れを取り戻せるように努める。
本年度は,hMSCsのマイクログリアに対する修飾作用をIFNγ刺激によるクラシカル型(M1)への活性化させたBV-2により行った。次年度は同様の検討をIL-4による代替経路型(M2)へ活性化させたBV-2により行う。さらに,このM2型のマイクログリアが虚血性細胞死に対しどのような作用を及ぼすか調べるために培養BV-2の虚血脳への移植やBV-2の培養上清を虚血脳に移植することにより確認したい。さらに,マイクロアレイで得られた虚血関連因子により刺激されたhMSCsから産生されるケモカインのタンパク質レベルでの同定をプロテインアレイと免疫細胞染色により決定する。そして,実際それらの応答がhMSCsを虚血脳に移植し経時的に脳内hMSCsを調べることにより決定する。最終的にその因子をsiRNAで欠損させ脳虚血保護作用を調べる。
旅費およびその他経費はほぼ計画通りに遂行できた。しかし,年度末の学内のシステムの更新等の関連もあり物品費に関して報告時点で決算で来ていないものが40万円ほど残っている。本年度より初めて基金化のシステムで行ったので年度移行時期の対応がうまくできなかった。次年度はこのようなことがない様に年度末に精算したい。本年度はex vivoシステムを用いヒト骨髄間葉系幹細胞の脳虚血の応答をしらべることができた。次年度は本年度の情報をもとにヒト骨髄間葉系幹細胞が出すどのような因子がマイクログリアの活性化に関与するかまた,そのような因子が脳梗塞の抑制につながるかを具体的に示した行くために動物実験および培養実験ともにsiRNAなどのシステムを用いて解析する。そのための試薬などの整備を行う。さらに学会参加は国際学会の参加を当初2回(国際神経免疫学会,ドイツとRegpep2014, 京都)と考えていたが7月にグリアに関するコールドスプリングハーバーシンポジウム(米国)が開催されることが分かり3回に増やす予定である。その他に関わる論文校正は,現在作成中のものもあり予定通り消化する予定である。本年度の繰越金を含めほぼ予定通り消化できると見込んでいる。
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