研究課題
脳は免疫学的寛容の場として知られ、皮下ワクチンなどによって腫瘍特異的な細胞障害性T リンパ球が誘導されても、十分な治療効果を得ることが困難であった。今回、我々は脳腫瘍へ特異的な集積を示す近赤外蛍光色素修飾型リポソームを開発し、その静脈内投与と脳腫瘍への近赤外線照射を組み合わせることで、一重項酸素による効率的な細胞死を起こすと同時に、腫瘍局所での温熱作用によって抗腫瘍免疫の効果的な誘導を目指した。ラット脳腫瘍モデルに対し本治療法を行い、MRIによって脳腫瘍体積の経時的な測定を行うと、治療群で有意な増殖抑制を示した。また、これに応じて生存期間の有意な延長も確認された。腫瘍組織の病理学的な検索では、治療群において著明な壊死の誘導と同時にアポトーシス誘導(TUNEL法)が確認された。免疫組織化学により、CD8+T細胞の著明な浸潤が見られたが、CD11b陽性のマクロファージ浸潤は軽微であった。脳腫瘍体積増加抑制効果はT細胞系列を欠如したヌードラットでは見られず、コントロールと全く変わらない増殖曲線となった。一方、本治療法で得られる40~45℃の温熱効果単独での影響を見るためアドメテック社のマイクロヒータ針を用いて脳腫瘍局所を加温する実験を行ったが、MRI上も組織学的にも腫瘍への影響は観察されなかった。以上より、本治療法は主として一重項酸素発生による腫瘍細胞障害と微小血管閉塞が壊死とアポトーシスを適度なバランスで誘導し、特異的抗腫瘍免疫が誘導されるものと考えられた。本治療法は、ICG、リポソームともに既に臨床応用されている薬剤であることから、比較的安全に臨床応用が可能と考えられる。今後は、マクロファージ浸潤の少なさを補うための工夫により、より強力な抗腫瘍効果が得られる可能性がある。
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