脳下垂体腫瘍は通常は良性腫瘍で手術による摘出のみにて治療が完結するものもある。しかしなかには悪性腫瘍のように周囲組織に浸潤して再発を繰り返すうちに神経症状を後遺したり、生命に危険が及ぶ場合も少なくない。その際には腫瘍内への栄養血管が異常な血管新生を呈することが多く、これを制御しきれないことが腫瘍を難治性としていると言っても過言ではない。われわれは細胞膜上に発現する水チャンネルであるAquaporin (AQP)-1を血管新生に関わる因子として着目してきた。一般的に悪性脳腫瘍では脳腫瘍自体にAQP-1を発現して機能を維持するが血管内皮細胞には発現しないため腫瘍内部に壊死を生じる。しかし、良性脳腫瘍ではこの関係が全く逆で脳腫瘍自体には全くAQP-1が発現しないが、血管内皮細胞に強く発現する。つまり良性脳腫瘍では悪性脳腫瘍ほど細胞内解糖系が活発ではなく細胞内浮腫を生じないが、血管自体は血管新生を維持するためにAQP-1を発現している。よって難治性となり手術での摘出が困難となった良性脳腫瘍の増大を制御するため血管新生をより強く抑制する必要がある。まず下垂体腺腫の細胞株を培養して、そのなかにAQP-1を過剰発現させてみたところ、明らかにwild typeと比べて過剰発現株での細胞の成長は促進された。つまり通常の状態では下垂体腺腫はAQP-1を発現せず、細胞内解糖系の活性化によっても増殖が促進されない状態となっていることがわかった。難治性となったものの中には悪性化の指標とも言える腫瘍細胞のAQP-1の発現を認めるものもあり血管新生と相まって細胞増殖が促進されていることがわかった。また血管内皮細胞にもAQP-1を過剰発現させるとその成長増殖が促進された。これらの共存培養系を確立することで、難治性のモデルを作成することが可能となりAQP-1の作用効果の指標となると思われた。
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