研究課題
大阪大学では、悪性神経膠腫に対するWT1ペプチドワクチン療法に第二相臨床試験を施行しており、充分な安全性と有効性があることを明らかにしてきた。しかし全例で効果があるわけではなく、ほとんど効果がなかったと考えられる症例も多数存在するのが現実である。現在のところ、有効症例と無効症例において何が異なるのか分からず、事前に効果があるかどうかを判定することも出来ない。おそらく、腫瘍組織内における免疫応答が有効例と無効例では異なっていると思われる。したがって、当研究では腫瘍組織内における免疫応答を解析し、無効例において、どのような免疫逃避機構が働いているかを解明して、それらを解除する方法を探索することを目的としている。まず、WT1ペプチドワクチン療法が施行されたのちに、治療目的で腫瘍摘出術が施行された20症例(ほとんどの症例が治療無効例)について腫瘍組織がWT1ペプチドワクチン療法施行前の腫瘍組織トドのように変化しているのかを検討した。その結果、腫瘍組織内に浸潤しているリンパ球の数や組成については明らかな変化を認めなかったが、WT1タンパクの発現、HLA class1陽性細胞の割合が有意に低下しており、また、腫瘍組織内におけるTGFβが有意に増加していることが確認された。これら20症例のほとんどが無効症例であったことを考慮すると、この結果は、腫瘍細胞が免疫から逃避すべく変化した結果を示していると言える。すなわち、WT1ペプチドワクチン療法を施行すると、腫瘍細胞がWT1やHLA class1の発現を低下させ、TGFβを分泌することで免疫による攻撃から逃れる、あるいは、このような免疫逃避機構を持った腫瘍細胞のみが生き残っていると考えられる。この結果は、悪性神経膠腫に対する免疫療法における免疫逃避機構を証明した初めての結果であり、今後の免疫逃避機構の解除方法探索に生かされると期待される。
2: おおむね順調に進展している
実際にヒトでWT1ペプチドワクチン療法を施行した後の腫瘍サンプルの収集が目標である20症例に達し、解析も順調に進んでおり、計画通りである。発がんプラスミドベクターを用いたGBM自然発生マウスモデルに関しては、単独での作成が難しいと判断し、現在外部の研究者と共同研究を準備している。準備が整えば動物実験が始められるため、残り2年の研究期間内に達成可能と思われる。
ヒト悪性神経膠腫組織を用いた免疫逃避機構の解析についてはおおむね終了しており、今後、論文を作成する予定である。発がんプラスミドベクターを用いたGBM自然発生マウスモデルは作成に向けて外部の研究者と共同研究の準備中であり、準備が整い次第作成が可能と思われる。モデルが作成されれば動物実験をすすめていく。
発癌プラスミドベクターを用いたGBM自然発生モデルについては外部機関との共同研究にて行うこととし、まだ準備段階であるために、動物実験関連の支出が今年度はまだあまり行っていない。そのため、発癌プラスミドベクターを用いたGBM自然発生モデルの作成やそれを用いた動物実験については次年度に行うこととしたため、次年度使用額が生じた。次年度は主として動物実験を行う。マウス購入、飼育に関する費用に40万円、マウス用WT1ペプチドワクチンとアジュバントの購入に40万円、プラスミドベクターの購入、制作に30万円、免疫染色抗体、試薬に50万円、Flow cytometry抗体、試薬に50万円、学会発表旅費に40万円で合計250万円を使用する予定である。
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