研究実績の概要 |
目的:自然発症高血圧ラット(spontaneous hypertension rat, SHR)と正常血圧のラットであるWistar rat の両者に意図的に水頭症を作成し、水頭症の程度の差と、それによる神経症状の差を検討した。 方法:ラットを定位手術装置に固定し、後頭骨と第一頚椎の間から25%カオリン懸濁液を髄腔内に50μl注入した。14日後灌流固定を行い、冠状断面を作成した。脳室の最大幅(ventricular width, VW) / 脳の最大幅(brain width, BW)、および脳室の最大高さ(ventricular height, VH) / 脳の最大高さ(brain height, BH) を測定した。VW/BWをventricular width index (VWI)、VH/BHをventricular height index (VHI)とし、両群の平均VWI, VHIを比較した。ロータロッド試験 (rorarod test) と受動的回避学習試験 (passive-avoidance task, PA task)を水頭症作成前と手術後12日目の計2回行った。 結果:VWIではWistar ratが39±12%となり、SHRで48±12%となった。P=0.04となりVWIに有意な差が見られた。VHIではWistar ratが26±11%となり、SHRで35±10%となった。P=0.08となり有意な差は見られなかった。ロータロッド試験:水頭症作成後の平均悪化率はwistar ratで25.4±20.8%、SHRで14.3%±61.6%となった。両群間の平均悪化率での比較はP=0.63となり有位な差は見られなかった。受動的回避学習試験ではWistar rat、SHRともに水頭症作成後の記憶力低下は観察できなかった。変化率にはwistar ratとSHR間に有位な差は見られなかった。 結論:収縮期血圧、拡張期血圧のいずれもがWistar ratよりも約1.5倍高かったSHRにおいて有意に大きな脳室拡大が観察され、高血圧が脳室拡大に影響することが証明された。ただし、水頭症自体はカオリンの注入によって形成されたので、高血圧が水頭症の原因であるとすることはできない。水頭症は頻度の低い疾患なので、高血圧以外の誘引を与えず水頭症の発生率を比較するには多数の実験動物を必要とする。
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