研究実績の概要 |
慢性腰痛は社会医学的に大きな問題となっているが,原因は様々であり,腰痛の約85%は原因の特定できない非特異性腰痛といわれている.椎間板の変性に伴い疼痛伝達を担う神経線維が椎間板内側に侵入し,さらに疼痛感作が行われることが慢性腰痛の病態の1つである. Prostaglandin (PG)は慢性腰痛治療に用いられることがあるが,その有効性における分子機構は不明である.本研究の目的は,椎間板変性を背景とした慢性腰痛に対するPGの反応をヒト椎間板由来の細胞を用いて細胞外基質分解酵素および神経成長因子(NGF)の遺伝子発現調節機構を明らかにし,慢性腰痛予防,慢性腰痛に対する薬学的治療の可能性について検討することである. 当該年度までに,各種PG (PGE1, PGE2, PGF2a, PGI2, PGD2)およびPGE1およびPGE1の誘導体であるlimaprostの細胞外基質分解酵素およびNGF発現に対する効果について検討し,炎症刺激であるIL-1により誘導される当該遺伝子発現が,PGE1, PGE2, limaprost, PGI2により抑制さえることを明らかにした.また,PGE1およびPGE2は,IL-1の細胞内情報伝達を担うMAP kinaseのリン酸化を抑制することを見出し,その抑制機序としてPGE1およびPGE2がMAP kinaseの脱リン酸化酵素であるDUSP (dual-specificity phosphatase)-1の発現を誘導することによると示唆する結果を得た. 当該年度は,上記研究結果の再現性を確認するとともに,その成果について論文作成および国際学会での発表を行い,研究成果の波及を目指した.
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