研究概要 |
軟骨肉腫は組織学的悪性度(Grade)が上がるにつれて軟骨分化マーカー発現が下がる事が知られているが、Grade 特異的かつ機能的にGrade 表現型に役割を果たしている分子は全く分かっていない。本研究では、TGF-βファミリー・シグナルをその候補に想定し、その標的遺伝子検索と機能解析を行い、将来的な分化誘導療法の分子標的としての評価を開始した。軟骨肉腫培養細胞株を用いてin vitro におけるcell-autonomous なTGF-βファミリー・シグナル活性化状態を解析した。正常軟骨細胞株C28/I2 のITS 添加分化誘導系を正常分化コントロールとし、軟骨肉腫細胞株[Hs819.T(由来Grade 不明), SW1353(Grade 2 由来), OUMS27(Grade3 由来)]のITS 誘導(monolayer 及びmicromass culture)分化系と比較した。SOX9, COL2A1, COL11A2, アグリカン, COL10A1 等軟骨細胞分化マーカーと、TGF-βシグナル直接標的遺伝子(PAI-1, SMAD7)とBMP シグナル直接標的遺伝子(ID1, ID2,SMAD6)のmRNA 発現を定量的RT-PCR で解析し比較検討した。リン酸化SMAD2/3 及びSMAD1/5/8 のウエスタンブロットでシグナル活性化を評価した。TGF-βシグナル・レポーター(9xCAGA)及びBMP シグナル・レポーター(BRE)を用いたルシフェラーゼ・アッセイ系でシグナル活性状態を解析した。その結果、正常軟骨細胞と軟骨肉腫細胞では、TGF-βリガンドに対する反応、とりわけ分化マーカー発現形態が異なる事が分かった。すなわち、軟骨肉腫細胞では早期軟骨マーカーCOL2A1, COL11A2, アグリカンは低く誘導も軽微であったが、後期マーカーCOL10A1はむしろ正常より協力にTGF-βよって誘導される事が分かり、異常な分化形態が示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
TGF-βの軟骨肉腫細胞分化度への影響と、誘導される分化度抑制に関わるBMP/SOX9 シグナル調節因子の検索 a)培養軟骨肉腫細胞株にTGF-βシグナル抑制剤SB431542 を作用させると分化を獲得するか評価する。この際、悪性度パラメータとして細胞増殖(MTT assay)、細胞運動(wound healing assay)も検討し、逆に減弱するか評価する。b)既知のBMP シグナル制御因子[Dan, Chordin, Gremlin, Cerberus, Noggin, Smad6, Smad7,Smurf1, Smurf2, Ski, SnoN(SKIL)等]の発現を1)-b)の細胞分化系でプロファイリングし、培養軟骨肉腫細胞において発現が高いものについて、in vitro でTGF-β添加で誘導されるか、逆にSB431542 で発現抑制されるか確認する。その結果抽出された因子の病理組織免疫染色にてGrade と発現が相関するか解析する。内因性BMP シグナルそのものが、むしろ軟骨肉腫の未分化維持に貢献する可能性を、BMPシグナル抑制剤(Dorsomorphin, LDN193189)を添加してこれを検証する。この場合、BMP の直接標的・分化抑制因子ID ファミリーをエフェクター分子候補として、siRNA によるノックダウンで検証するが、そのredundancy の為ID1,2,3,4 全ての同時ノックダウンが必要である可能性を念頭に入れておく。 分化度抑制遺伝子の同定と機能解析と、軟骨肉腫細胞株in vivo 移植実験による分化誘導療法の探索も順次計画する。
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