研究実績の概要 |
軟骨肉腫は悪性度にしたがって、grade 1,2,3に分類される。Grade 1は基本的に遠隔転移を来さないとされるが、局所増大や浸潤などの悪性表現型を示す。しかし放射線治療や化学療法は基本的に無効な為、広汎切除術が基本的な治療選択肢である。問題は、軟骨肉腫の良性カンターパートである内軟骨腫とは病理像がしばしば酷似して鑑別が困難であり、内軟骨腫の治療が経過観察か掻破切除に留まる事を考慮すると、誤った診断は患者にとって莫大な損害となる。これらを鑑別する分子マーカーの同定が望まれる中、我々は軟骨腫瘍としての分化度に着目し、その相違について検討してきた。 TGF-βシグナルは、軟骨細胞分化の早期を促進し、後期成熟は抑制する2面性を有する事を、既に我々は別の研究で明らかにしている。TGF-βシグナルの活性は、下流のSMAD2/3のリン酸化で評価できるが、これを軟骨肉腫各gradeの病理組織において、免疫組織化学染色で検討した。その結果、内軟骨腫、grade 1,2各軟骨肉腫の順で、きれいに徐々にSMAD2/3のリン酸化レベルが増えることが分かった。 そこで、TGF-βシグナルが実際になんらかのマーカーの発現変動に関与しているか調べたところ、PEG10遺伝子のmRNA発現がTGF-βシグナルレベルと逆相関、すなわち内軟骨腫で高く、軟骨肉腫で低くなる事を明らかにしてきた。今回免疫組織化学染色で蛋白レベルでも検討し、実際にPEG10蛋白が軟骨肉腫で発現低下して、gradeとも逆相関する事を確認した。PEG10はいくつかの上皮系がんでは発現が増えることが報告されているが、今回の我々の発見はそれと真逆であり、軟骨肉腫におけるPEG10発現動態の特異性が明らかとなった。これらTGF-βシグナルとPEG10発現の逆相関は、その組み合わせで軟骨肉腫の診断およびgradingに有用な鑑別分子マーカーとして利用出来る可能性を示唆する研究結果となった。
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