研究課題
ATDC5にPRP (多血小板血漿) を作用させ、軟骨分化を誘導可能な濃度を検討すると1-2%の比較的低濃度でも1週間程度でalcian blueの染色性が向上し、軟骨分化誘導が確認された。一方同一条件でSOX6およびCOL2A1プロモーターを用いたルシフェラーゼ・レポーターアッセイを行いPRPの活性を簡便に評価可能か検討したが、反応性に乏しくレポーターアッセイによる簡易評価は困難と判断、以後の評価はalcian blue 染色その他の染色法とCol2a1, Sox6 など軟骨分化マーカーmRNAのリアルタイムRT-PCRによる定量法で行うこととした。転写因子の検討ではPRPの作用によりSoxトリオが誘導されている結果が示された。そこでマイクロアレイ上SOXトリオにより誘導される因子について改めて検討を行った結果、軟骨分化誘導に働く転写因子ファミリーをひとつ、転写共役因子ファミリーをひとつ、また機能未知分子をひとつ、新たに同定することができた。次いでインヒビターを用いて既知の液性因子・シグナル伝達系のPRPによる軟骨分化誘導への影響を調べると、軟骨分化誘導に一般的にかかわるとされるBMP/TGF-beta family, ALK, SMADの経路以外にPDGF(血小板由来増殖因子)/VEGFを介した経路が重要な役割をもつことが判明した。一方採取血液のincubation や機械的刺激によりPRPの軟骨分化誘導能を高めたPRCF (plasma rich in chondrogenic factor) の作成については、BMP2など既知の軟骨分化誘導因子に匹敵するような強い活性を得るにはいたっておらず継続実験検討中である。
2: おおむね順調に進展している
分子レベルでのPRPの作用点、作用機序については、転写因子レベル中心に新たな軟骨分化誘導因子を複数同定し、その基礎的な機能を解明中であること、またPRPに従来含まれていることが知られている液性の増殖因子のうち、従来その機能がcontroversial であったPDGFBや機能未知であったPDGFDに軟骨分化誘導能が存在することが確認されたこと、PDGFB/PDGFDは強制発現系でATDC5に細胞増殖とともに軟骨基質産生を誘導し、さらにATDC5にPDGFBをレトロウィルスで安定導入した系を確立することでPDGF経路を介した軟骨再生を安価に再現可能な系を確立したこと、など予想以上の結果を得ている。とくに新規に同定した軟骨分化誘導転写因子についてはこれまでの既知の軟骨分化転写因子と異なり、未分化軟骨細胞に特異的にSOX6やCOL2A1のプロモーターを活性化、ATDC5やC3H10T1/2に導入すると軟骨基質産生とともにALP活性上昇、細胞増殖の抑制・停止など中期の軟骨分化を示す作用を示した。一方、PDGFを介した系はALP活性の上昇を伴わず、細胞増殖は促進することから、より初期の分化を担うと考えられ、これら2つの組み合わせは今後の研究の展望を考えた場合に極めて有望と考えている。一方、PRCFの作成については、incubation時間を中心に検討したが、安定して効率よく高レベルの軟骨分化を誘導する系の確立にはいたっていない。以上をあわせて考えると予測以上の進捗レベルの分野と進捗が遅れている分野があり、全体としては概ね予定通りの進捗状況と評価している。
作用機序の解明については、平成25年度の知見をもとに新たに同定された軟骨分化誘導転写因子、転写共役因子、およびそれに関連した機能未知分子、さらにPDGF経路を中心に、軟骨再生医療への応用を念頭におきながら機能解析を行う。具体的にはプロモーター・レポーターアッセ、ゲルシフトアッセイやクロマチンIPなどによる作用点の解明、レポーターアッセイ、免疫沈降法やツーハイブリッドレポーターアッセイを用いた分子間相互作用の検討を行う。相互作用を認めた分子についてはレトロウィルス発現系への応用を考慮し相互のハイブリッド分子を作成しその機能を検証する。またPDGFDについてもPDGFBと同様レトロウィルスによるATDC5での安定発現系を利用し、その上清により軟骨分化を誘導可能か複数の未分化軟骨細胞株で確認する。さらに初代培養の末梢血や骨髄由来の間葉系幹細胞を用いたインビトロ軟骨形成系の作成をトライする。可能ならラットを用いた細胞・組織移植実験を行い軟骨再生医療への応用への足掛かりとする。PRCFについてはincubation時間での検討は有効とはいえなかったため、機械的刺激物理的刺激の他、比較的安価に入手可能な接着因子や組織因子をいくつか用いて血小板を刺激する系を作成し、PRCFが作成可能か検討を行う。
すべて 2013
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件)
J Biol Chem.
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