研究実績の概要 |
高齢者の自立を阻害する主要な原因に運動器障害がある。中でも骨粗鬆症を基盤とする脆弱性骨折は運動機能の低下による日常生活動作(ADL)障害と生活の質(QOL)低下をもたらすことから重篤である。まさに健康寿命を阻害している。高齢者における骨粗鬆性骨折は脊椎、大腿骨近位部、上腕骨、橈骨によくみられる。本研究では寝たきりに直接関係すると思われる大腿骨近位部骨折について、その発生頻度、経年的推移と骨折危険因子を解析し、合わせて骨組織所見から病態を明らかにし、骨折予防対策を立てることをめざした。 我々は新潟県全県を対象に大腿骨近位部骨折について調査した。その結果によれば2010年新潟県全県(人口約240万人)の大腿骨近部骨折発生数は3218であり、1985年の発生総数に比して5倍増であった。年齢別骨折発生率では75歳以上で増加することを示し、その年齢別骨折発生率の増加は1985年以降年々、高くなり、2010年に至るまで続いていた。2015年にも同様の調査を新潟県全県でおこなった。その結果によれば骨折総数は3,200程度で2010年の発生数とほほ同程度であった。このことから大腿骨近位部骨折発生は新潟県において2010年から2015年にかけては横ばい状態であったと示唆される。 つづいて骨粗鬆症を基盤とする大腿骨近位部骨折症例から骨組織を生検し、骨組織を骨形態計測の手法を用いて解析した。中でも非定型大腿骨骨折症例の骨代謝回転は低から正常範囲内の回転レベルを示しており、少なくとも高回転の症例は認められないものの、全体としての一定の傾向はなかった。 以上のことから骨粗鬆症を基盤とする高齢者の脆弱性骨折、なかでも大腿骨近位部骨折は75歳以上の高齢者で特に好発しており、骨折総数は経年的に2010年から2015年にかけて横ばい状態ではあるが、さらなる低減のための積極的で継続的な予防介入が望まれる。
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