研究実績の概要 |
軟骨細胞において、BMPシグナルの下流で発現が増加する新規遺伝子Smpd3を同定し、その軟骨細胞分化・成熟過程における働きを、in vitro(マウス軟骨細胞株ATDC5, C3H10T1/2, 初代軟骨細胞、ヒト軟骨細胞株C28/I2)とin vivo(C57BL/6マウス)で解析した。 Smpd3およびそのコード蛋白neutral sphingomyelinase 2(nSMase2)の発現は、Col10a1の発現が始まる軟骨細胞肥大化とリンクして増加した。その発現には、Runx2が必須である事も確認した。siRNA及び特異的機能抑制剤GW4869によるloss-of-function実験では、軟骨肥大化が著明に亢進し、逆にアデノウイルスによる過剰発現、そして機能mimic分子C2-セラミドの添加は、軟骨細胞の肥大成熟を抑制した。その表現型へのnSMase2分子作用点を検索したところ、PI3K-Akt-S6蛋白経路が重要である事が分かった。BMPシグナルそのものへの影響は全く認めなかった。確かに、PI3K-Akt-S6蛋白経路それぞれの段階の抑制化合物の添加は、siSmpd3による分化亢進を完全に消去した。 変形性関節症(OA)は、本来分化成熟しない関節軟骨が異常に分化が進行して成熟と基質石灰化を来す事が、その分子病理として知られているが、軟骨器官培養系にGW4869を添加するとこれが促進し、C2-セラミドは逆に抑制したので、Smpd3/nSMase2のOA発症・進行への抑制的な役割が示唆されたと同時に、OA治療にこれらの化合物(臨床応用には適した誘導体)が有効である可能性を示した。この結果は論文に報告した(Kakoi H, et al, J Biol Chem, 289,8135-8150, 2014)。それ以降、最終年度も実際のOAサンプルにおけるnSMase2の発現分布を、免疫組織染色で検討してきており、肥大化を伴う変性軟骨細胞における染色性を認めている。nSMase2シグナル経路のOA治療における分子標的としての可能性を確認した研究結果となった。
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