研究課題
破骨細胞形成は骨芽細胞に発現するRANKLと骨破壊を誘導するインタフェロン(IFN)-γやIFN-βなどの細胞外からの制御因子によって調節されている。しなしながら、RANKLによって誘導される破骨細胞分化の内在性の負の制御因子についてはあまり知られていない。研究代表者らは、ホメオドメイン転写因子Pax6がRANKLによって誘導される破骨細胞分化を抑制的に調節していることを見出した。ゲルシフトアッセイおよびレポーターアッセイの結果、破骨細胞マーカーである酒石酸耐性酸性フォスファターゼ(TRAP)遺伝子のプロモーター領域にPax6が結合し、Pax6によって破骨細胞のマスター制御因子であるNFATc1によるTRAP遺伝子の転写活性化能が抑制された。重要なことは、骨髄細胞由来のマクロファージにレトロウイルスを用いてPax6を遺伝子導入すると、RANKL誘導による破骨細胞の形成が有意に阻害されたことである。さらに研究代表者らは、抑制的に働く転写共役因子GrouchoファミリーGrg6がNTAFc1による活性化されるTRAP遺伝子のPax6を介した転写抑制に寄与することを見出した。これらの結果は即ち、Pax6がGrg6と共役してRANKL誘導の破骨細胞分化を抑制していることを示していると考えられた。以上の結果より、Pax6を介した経路が破骨細胞分化におけるRANKL-RANKシグナルの負の調節機構として関与し、Pax6発現を増強させることによって骨粗鬆症や慢性リウマチ症などの病理生理学的な骨破壊の治療または予防の観点から新たな治療・予防標的となることが期待される。
1: 当初の計画以上に進展している
本研究課題が開始された初年度において、新たな骨代謝疾患の治療標的となる可能性のあるPax6が破骨細胞分化を抑制することを見出した。これらの成果は、2013年JBC誌に受理されており、学会発表を含めて社会に向けて情報発信の機会が得られたことは計画以上に進展したといえる。さらに、今後個体マウスの解析を推進するにあたり、組織特異的遺伝子破壊マウスを作製することができるPax6flox/floxマウスを所有しているエジンバラ大学の研究グループと交渉し、26年度に埼玉医科大学実験動物施設に本マウスを搬入することができ、着実に準備を進めることができたため。
今後は破骨細胞特異的にPax6欠失マウスを作製することができるCathepsinK-Creマウスを入手することをはじめ、順次骨髄由来マクロファージを用いた破骨細胞形成能、破骨細胞特異的Pax6欠損マウスを作製し、マイクロCT解析・骨形態計測等の骨代謝パラーメータ等を計測し、Pax6の生理的役割を明らかにする予定である。さらに、個体マウスや胎児線維芽細胞を用いて、Pax6をはじめとする転写因子ネットワークによるグルコース代謝に関与する膵臓β細胞の分化に重要な経路の検索やChIP-Seq・DNAマイクロアレイ解析等分子生物学的手法を駆使し、メタボリックシンドロームとロコモティブシンドロームのクロストークに関わるネットワーク制御機構の分子メカニズムの一端を解き明かしていく予定である。
各社メーカー・ディーラーとの価格交渉により、高額なサイトカイン(RANKL)等の幾つかの格安製品にて研究を着実に遂行することができたことによる差額であり、必要試薬等の経費としては概ね予定通り購入し、順調な研究計画遂行を実現でき、経費節約ができた結果ととらえている。金額としては17,089円をPax6flox/floxマウスおよびCathepsinK-Creマウスの飼育管理費・系統維持費が消費税増税とともに、昨年度よりもコスト高になっているため、これらのマウス飼育管理・系統維持費用に充当予定である。
すべて 2013
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (5件)
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