研究概要 |
近年,高齢社会の到来に伴い変形性関節症(Osteoarthritis, OA)の有病率が増加しており,その治療は大きな社会的課題となっている.軟骨変性により生じた荒廃関節に対し,関節形成術が行われ一定の臨床成績が得られているが,軟骨変性を予防,もしくは改善させる治療法の確立が必須であると考える.これまでにも,蛋白分解阻害剤(TIMP)をはじめ,多くの疾患修飾薬剤(Disease modifying osteoarthritis drugs, DMOADs)が報告されている.しかしながら,臨床応用に至った薬剤は存在しない.本来OA は機械的ストレスを要因として発症する疾患である.その原点に立ち,軟骨細胞内ストレス伝達機構を改めて検討することにより,新規薬剤開発を目指すことを研究目的とした.これまでに,我々は機械的ストレスが軟骨細胞および軟骨組織に与える影響について検討してきた.軟骨細胞に対する機械的ストレスは,活性酸素種(Reactive oxygen species, ROS)や一酸化窒素(Nitric oxide, NO)を誘導することを見出しており,また,これらの相互作用によって軟骨基質合成抑制やアポトーシスなどの軟骨変性が進行することを明らかにした.そこで,本研究では,機械的ストレスまたは近年機械的ストレス受容体として注目されているTransient Receptor Potential Vanilloid-4 (TRPV4)の活性化を目的にPDDまたはLPA処理によるRho タンパク質活性化を証明するとともに,OA 関連の臨床症状(疼痛・炎症など)や,軟骨基質分解酵素誘導との関連について検討を行なった.これにより,Rho/ROCK をはじめとするRho ファミリータンパク質がOA治療の標的分子となる可能性について検証した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度にあたる昨年度は,当初の予定通り,軟骨細胞において機械的ストレスまたは及ぼす細胞内ストレス伝達機構への影響について検討した.特に,近年ストレス応答に重要な働きが示唆されているRho GTPaseの関与を中心に機械的ストレスによるRhoタンパク質活性化を証明するとともに,OA関連の臨床症状(疼痛・炎症など)や,軟骨基質分解酵素誘導との関連について検討を行なった.ウシ軟骨細胞を材料とし,Rhoを活性化するLPAに暴露することで特にJNK経路の活性化が顕著に見られ,軟骨基質産生の阻害が認められた.また,ROCK阻害剤によってこれらの活性化を抑制することが可能であることも明らかとなったことから,Rho/ROCKを介した細胞内シグナル伝達機構の活性化が軟骨細胞の基質産生を抑制していることが示唆された.また,これらの現象はウシ軟骨細胞だけでなく,マウス及びヒト軟骨細胞においても観察でき,種間を問わない現象であることが明らかとなった. 今後はさらに,Rho活性化による軟骨を対象とした基質破壊や炎症促進分子の誘導,滑膜を対象とした炎症細胞の浸潤,疼痛誘発因子の誘導について検討し,Rho/ROCKをはじめとするRhoファミリータンパク質がOA治療の標的分子となる可能性について検証する.
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今後の研究の推進方策 |
昨年度は主に,軟骨細胞におけるRho/ROCKシグナル伝達経路の活性化が軟骨基質産生に及ぼす影響を中心に解析を行なってきた.今後は,関節疾患において症状の増悪に極めて重要な役割を担う滑膜細胞についても,同様にRho/ROCKシグナル伝達経路の活性化が及ぼす影響を検討する.特に,炎症促進分子の誘導や炎症細胞の浸潤,または疼痛に関わる因子の詳細な活性化メカニズムについて明らかにしていく. また,軟骨組織に対し周期的圧迫ストレス負荷(FX-4000 Flexercell Compression Plus)を使い,ストレス関連分子の釣出しを実施する予定である.
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次年度の研究費の使用計画 |
当初の予定に付け加え,軟骨細胞及び滑膜細胞を含めた膝関節の総合的な病態の理解を目的としRho/ROCKシグナル伝達の活性化が及ぼす炎症メカニズムをin vitro実験系及び,ex vivoモデル実験系において検討していく予定である. 計上通り,主に,Westernblot,Realtime-PCR,免疫染色,などを実施する予定であるため,これらに関係する分析試薬・培養試薬の購入に使用する.
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