増加の一途を辿る変形性関節症(OA)による関節機能障害の進行を防止し、高齢者の健康寿命の延伸を図るためには、その病因・病態の解明、予防法・薬物治療の確立は重要な課題である。本研究の目的は、高血圧症発症の因子であるレニン・アンジオテンシン系(RAS)の変形性膝関節症(OA)の発症および進行への関与をつくば高血圧マウス(Tsukuba Hypertension Mouse (THM)、ヒト レニンとヒト アンギオテンシノーゲンのトランスジェニックマウス)を用いてin vivoにて明らかにすることである. トレッドミルを用いてC57/BL6マウスおよびTHMマウスを強制走行(25m/分、30分、週5日)させた.走行開始後2週、4週、6週、8週にて安楽死させ、左膝関節を摘出し内外側コンパートメントを組織学的に評価した.THMの膝外側コンパートメントのOAスコアはC57/BL6マウスに比較して強制走行開始4週以降有意に高く、8週後にはOA変化のマーカーである10型コラーゲン、MMP-13、ADAM-TS5発現の有意な亢進、および、2型コラーゲンの有意な低下が認められた.また、8週後にはTHMにはRASコンポーネントであるアンギオテンシンII1型受容体(AT1R)、AT2R、ACE、アンギオテンシノーゲンの発現が認められた.AT1RおよびAT2Rは走行開始後2週、4週、6週、8週で経時的な発現亢進が認められた.すなわち、RAS系の亢進しているTHMは運動負荷によるOAを発症しやすく、OAの発症と進展には局所RASが関与していることが示唆された. 以上の結果より、AT1R阻害薬である降圧剤が高血圧症に有効であるのみならず変形性関節症の薬物治療にも有効である可能性があり、変形性関節症の薬物的治療に新たな可能性を示すことができたと考える.
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