脳内局所の血流は、神経血管カップリング機構を介しニューロンの活動に呼応してリアルタイムに制御されている。ニューロンと脳血管の間に介在する星状神経膠細胞が、この血流制御機構の中心的役割を果たしていることが近年明らかになりつつあるが、高血圧病態時に星状神経膠細胞を介する脳血流調節機構がどのように障害されるか、また麻酔薬がこれら病態時の脳血流調節にどのような影響を及ぼすかについては未だ明らかにされていない。本研究では、自然発症型高血圧および妊娠高血圧モデル動物を用い大脳皮質内微小細動脈の収縮拡張反応を観察した。グルタミン酸受容体刺激に惹起された星状神経膠細胞内カルシウムシグナルに注目し、隣接する脳細動脈の血流調節作用を各種麻酔薬の影響も含めその全容を明らかにするものである。脳微小血管近傍の星状神経膠細胞と脳血管との関係について実験を行った。蛍光蛋白質GFPを星状細胞内繊維蛋白プロモーター下に発現させたトランスジェニックマウスを用い、大脳皮質を含むスライス標本を作製した。カルシウムイオン蛍光プローブ(rhod-2/AM)を星状細胞に取り込ませた後、人工脳脊髄液を灌流させた観察チャンバー内にスライス標本を静置し、顕微鏡下に星状神経膠細胞と隣接する脳細動脈を同定した。揮発性麻酔薬イソフルラン、セボフルランおよびデスフルラン(0.5-2.0 MAC) を通気ガスに付加、静脈麻酔薬プロポフォール(0.1-10 M)、ケタミン (0.1-10 M)局所麻酔薬リドカイン(1-50 M)を投与した場合の血管の反応を観察した。これら麻酔薬による脳血管反応性の変化が、一酸化窒素合成酵素阻害薬、各種カリウムチャネル拮抗薬、可溶性グアニレートシクレース阻害薬、およびNMDA受容体拮抗薬処置で抑制されるか否かを検討した。
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