実験的には脊髄実質内の血管は摘出が困難なため、その薬理学的研究は今まで全く行われていなかった。本研究では、われわれが独自に開発した微小血管研究システムを用い、血管内径が10マイクロメートル以下の極めて微細な脊髄血管をコンピュータ画面上で詳細に解析する点に学術的な独創性がある。また本研究では脊髄神経組織に埋没した実質内血管を観察するため、血管とそれに隣接する神経組織との関係が維持された生体内環境に近い状態での血管反応性を観察出来る点において、摘出血管を用いた実験と一線を画する。さらに、K+チャネルおよび一酸化窒素合成酵素阻害薬を用いた薬理学的手法のほか、神経型一酸化窒素合成酵素ノックアウトマウスおよびATP感受性K+チャネルトランスジェニックマウスを用いて遺伝工学的に脊髄血流維持機構と麻酔薬作用の機序を解明にするところに学術的意義がある。 本研究により、脊髄血流維持機構の脊髄内での部位差、麻酔薬の種類による脊髄内微小血管反応性の違い、さらにこれらの相違がK+チャネル、一酸化窒素合成酵素活性の変化に依存していることを明らかにすることができた。以上の知見は、虚血時における脊髄循環維持機構の生理学的、薬理学的機序解明のみならず、脊椎手術や大血管手術時など脊髄保護を必要とする手術や脊髄損傷患者に対する脊髄保護を指向した治療等において、麻酔、救急および集中治療管理の発展に大いに寄与すると考えられた。最終年度には各種遺伝子ノックアウトマウスおよびトランジェニックマウスの脊髄実質内血管について検討を行う予定であったが、資格喪失のため施行できていない。
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