研究実績の概要 |
麻酔中の体温低下は種々の原因で生じ,覚醒後にシバリングを認めることがある。その結果、患者にとって重大な合併症が起こりうる。一方、周術期に麻酔薬等の影響で悪心嘔吐が起こることが多くあり、制吐薬を投与する機会も多い。ウサギにおいて、各種制吐薬を投与したときのシバリング閾値温度(ST)を調べ、シバリングと各種制吐薬の影響を調べる。昨年に引き続き、ジフェンヒドラミンとジプロフィリンの合剤であり,周術期の制吐剤として一般的に使われるトラベルミン注とSTとの関係を比較検討した。ジフェンヒドラミンは抗ヒスタミン薬であり鎮静作用がある。一般的に麻酔薬はSTを低下させるので,鎮静作用がある薬物はSTを低下させると推測される。我々は、トラベルミン注はSTを低下させるという仮説を立てた。 ニホンシロウサギ60羽を、生理食塩水投与のC群,トラベルミン注0.02ml/㎏投与のT0.02群,トラベルミン注0.2㎎/㎏投与のT0.2群に無作為に分けた。プロトコル違反または死亡のために6羽が除かれ、C群の17羽、T0.02群の18羽およびT0.2群の19羽を比較検討した。各群のSTの平均値±標準偏差はC群で39.1±0.9℃、T0.02群で39.3±0.2℃、T0.2群で39.2±1.0℃であり,3群間に有意差を認めなかった(分散分析とTukey-Kramer’s testで処理)。 今回、STが変化しなかった原因として、投与量不足と薬剤の作用が考えられる。まず、ウサギに関する投与量の報告はないので、ヒトでの投与量をもとに、体重換算で投与量を決めた。投与量がウサギに影響を与える量であるという前提のもとで、ジフェンヒドラミンは閾値温度を上げたが、ジプロフィリンが閾値温度を下げ、両方の作用により、閾値温度が変化しなかった可能性がある。 トラベルミン注にシバリングを抑制する作用を期待することはできない。
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