高用量インスリンを虚血心筋に対して投与すると再灌流時の心機能回復が促進されるとされるが作用機序は未だ不明である。また、高血糖状態は虚血プレコンディショニング作用を抑制するとされていることから、本研究では高用量インスリンによるプレコンディショニング作用も高血糖により抑制されるのではないかという仮説を立てて、心機能回復とPI3K/Akt経路の面から検証することを目的にした。 方法は、ラットから心臓を摘出後に大動脈・肺静脈・肺動脈にカニュレーションしてLangendorff法にて灌流を行い、肺静脈から左心室内にバルーンカテーテルを挿入して左心室圧(LVP)を測定した。LVPから左室dP/dt maxを求めて、心収縮能の指標とした。肺動脈から流出する冠灌流液を経時的に採取して冠流量とした。上記のラット摘出心臓モデルにおいて、Non-flow ischemiaによる虚血再灌流実験を行い、対照群・高用量インスリン群・高用量インスリン+高血糖群の間で虚血再灌流時の心機能の回復を比較検討した。 実験の結果、高血糖下に高用量インスリンを虚血前から投与すると、正常血糖状態に比較して虚血再灌流時の心機能の回復が有意に抑制されることが示された。この結果から、高用量インスリンによるプレコンディショニング作用は高血糖により抑制されることが示された。更に最終年度では、心筋虚血再灌流後の心筋内pAktとTNF-αの測定を行ったところ、心筋内pAktは高用量インスリン群で最も高く、次は高用量インスリン+高血糖群であり、対照群で最も低値であった。しかし、心筋内TNFαは3群間で有意差を認めなかった。 本研究から、心臓外科手術において高用量インスリンを使用して心筋保護効果を期待する場合には、血糖を正常に保つ必要があることが示唆され、機序としては高血糖によるAkt活性化の抑制が考えられた。
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