研究実績の概要 |
本研究の目的は、神経障害性疼痛の病態を模したChung のラット脊髄神経結紮モデルを用いて、行動学的実験とともに、脊髄in vivo patch clamp 法を用いたシナプス応答を解析し、下行性抑制系の役割を各種鎮痛薬の効果を含め明らかにすることである。 トラマドールは自発性興奮性シナプス後電流(sEPSC)減少と抑制性シナプス後電流(sIPSC)を増加させたが、頸髄半切断による脊髄下行性抑制経路の離断実験でト主要代謝物M1の脊髄よりも上位での作用が関与していることがわかった。Chungモデルにおいては、トラマドール投与によりsEPSCは減少, sIPSCはあまり変化なかった。選択的定量的侵害刺激を再現可能なピンチ刺激、熱刺激デバイスを用いて、誘発EPSC、誘発IPSCの変化を検討したが、トラマドール投与で誘発EPSCは減少, 誘発IPSCはあまり変化なかった。最終年度は、Chungモデルで、青斑核のノルアドレナリン作動性下行性疼痛抑制系ニューロンを特異的に破壊する毒素であるDSP-4を用いて下行性抑制系の薬理学的遮断遮断を行い検討した。脊髄神経結紮側(右側)のallodyniaが確認されたラットに、DSP-4を50mg/kg腹腔内投与し、その10~14日後にaesthesiometerで逃避閾値を再測定した。神経障害性疼痛では抑制性ニューロンのKCC2トランスポーターの抑制により細胞内Cl-イオン濃度が上昇し、GABAあるいはグリシン受容体刺激によるCl-チャネルの開口で逆に脱分極側に電位が移行して痛みが発生しており、下行性抑制性ニューロンの破壊でむしろallodyniaが緩和される可能性も考えられたが、左側のallodyniaは出現したが右側のallodynia緩和や左右逆転といった現象はみられず、神経障害性疼痛の発生に下行性抑制系の関与は少ないと考えられた。
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