研究実績の概要 |
本研究は痛み伝達物質サブスタンスP(SP)による血管内膜アルブミン透過性の調節機構を解明するために計画された. 血管内皮細胞はわずかではあるが完全長ニューロキニン1受容体(full-length NK1R)のmRNAを発現していた.この細胞はリポ多糖(LPS)などの刺激に応じて組織因子(TF)を発現し,凝固活性を持つ小胞(procoagulant vesicle, PV)を発生させた.このPVが実際に凝固活性を持つことはフローサイトメトリーで確認されているため,全血中に同mRNAが検出されることは,内皮細胞由来のPVの発生を反映している可能性が示唆された.われわれは全血中に認められるfull-length NK1Rの遺伝子発現は血栓傾向を示すバイオマーカーであると提唱を行ってきたが,実験で得られた上記の所見は,臨床データをもとにわれわれが提唱した概念を部分的に支持する所見である. 神経原性浮腫の原因として知られているSPは,少なくとも今回の実験系では単独で血管内膜透過性を亢進するほどの強い刺激物質ではないことが示された.SPは血管内凝固の結果発生するトロンビンと共同して透過性を亢進することが示された.今回の実験系において,NK1R阻害薬は驚くべきことにSPの添加に関係なくPV発生刺激や内膜透過性を抑制することが示された.今回の研究により,血管内皮細胞がNK1Rリガンドのひとつであるヘモキニンの遺伝子を構成的に発現していることが示されたことから,両者を介した情報伝達経路が内皮細胞の活性を自己調整(autocrine regulation)している可能性が示唆された.
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