研究実績の概要 |
神経障害性疼痛は、難治性の慢性疼痛を形成する病態の一つであり、新たな鎮痛薬の開発が強く望まれている。我々は、Nav1.3の選択的阻害薬の開発が神経障害性疼痛に対する有効な鎮痛薬開発につながる可能性が高いと考え、Nav1.3に関する疼痛抑制機序を分子レベルで解明することを目的として研究計画を立てた。①電気生理学的手法(アフリカツメガエル卵母細胞発現系)と分子生物学的手法を用いたNav1.3, Nav1.7阻害薬のNav1.3に対する作用部位の同定、②同手法を用いた同阻害薬のNav1.7に対する作用部位の同定、③同手法を用いたNav1.3のみを選択的に阻害するための作用部位の同定、④遺伝子変異マウスと神経障害性疼痛モデルマウスによる鎮痛効果の検討、である。 抗うつ薬は、難治性疼痛に対して用いられる代表的な薬物であるが、種々の抗うつ薬がNav1.2、 Nav1.3、Nav1.6、 Nav1.7、 Nav1.8機能を抑制することを発見した。さらに、αサブユニットと結合する4種のβサブユニット(β1-4)のうち、β3サブユニットが神経障害性疼痛の発現に重要であることが示唆されているが、Nav1.3をβ3と共に発現させた場合、抗うつ薬の効果が有意に増強することを発見した。 一方、アロプレグナノロン(AP)は、ニューロステロイドの中で最も強い鎮痛作用を持ち、新たな鎮痛薬としての可能性を持つ薬物である。我々はこれまでに、代謝物であるアロプレグナノロン硫酸塩(APS)が、Nav1.2、Nav1.6、 Nav1.7、 Nav1.8機能を抑制することを学術論文として報告しているが、さらに、Nav1.3に対するAPSの抑制効果を確認し、β3と共に発現させることにより、その作用が増強することを発見した。これらの結果は、Nav1.3及びβ3サブユニットが鎮痛薬の作用部位として重要であることを示唆している。
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