淡明細胞型腎癌の半数近くでmTOR経路の変異や発現異常が報告されている一方、mTOR阻害剤は5%程度の症例にしか縮小効果をもたらさない。その理由として、この経路は細胞が周囲の感興を感知して自身の生存を優先するのか分裂による成長を優先するのかを決定する経路であることがあげられる。このシステムを安定して機能させるために、複雑なフィードバック機構が備えられている。そのためmTORを抑制するだけでは期待されたほどの腎細胞癌増殖抑制効果が発揮されなかったと考えられている。 この問題を克服するべく、この経路上の様々な分子をmTORと同時に制御する薬剤が開発されたが、結果としてその副作用の強さが理由となり、フェーズ3にたどり着けなかった。 今回我々はAKTにサブタイプが存在し、一部の機能をシェアしていることに注目して、これを個別に抑制することで、mTOR阻害剤による腎癌細胞への増殖抑制効果を安全に増強しうるかを検討した。 まず腎細胞癌の臨床検体を用いて個々のAKTサブタイプの発現状況を確認したところ、腎癌組織では全てのAKTサブタイプが発現していた。またmTOR経路と相互作用を示すことが知られているHIFαサブタイプについても解析したところ、HIF1αでのみAKT1~3と発現が連動していた。淡明細胞型腎癌の発生にはHIF2αが重要であることが知られているが、HIF1αもその成長に大きく影響している。そのためこの後はHIF1αとAKTの関係について探索を試みた。 腎細胞癌株に対しsiRNAをもちいたAKT1~3の抑制実験を行い、PI3K-AKT-mTOR経路の各分子及びHIFαサブタイプの蛋白発現への影響を観察した。今回の実験系ではAKT1の発現抑制がHIF1αの発現量に最も大きく影響していた。今後はAKT1得的阻害剤とmTOR阻害剤の併用による相乗効果について検討を加える予定である。
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