多嚢胞性卵巣症候群polycystic ovary syndrome(PCOS)は生殖年齢女性の5~10%に認められる頻度の高い疾患である。しかし、その病因は不明なため、様々なアプローチがなされている。その一つは、アンドロゲン暴露である。われわれは、幼若雌ラットにdehydroepiandrosterone(DHEA)を投与し、卵巣のPCOの再現をした。また、妊娠ラットにDHEAを投与し、生まれた雌ラットの卵巣がPCO化することにも成功した。このことは、ラットの場合性周期開始前にアンドロゲンに暴露することが、成獣になったときの卵巣がPCOになることの原因の一つであることを確認した。 また我々は臨床データから、幼少時からてんかんのためにバルプロ酸valproic acid(VPA)の投与を受けていた女児が初経初来後、高頻度にPCOSになることを確認し報告した。VPAはヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害活性があり、遺伝子がエピジェネティックな修飾を受けることにより多彩な兆候を誘発することが知られるようになった。今回、妊娠ラットにVPAを投与し、生まれた雌ラットが3週齢になったときの卵巣への影響を検討した。雌ラットの体重はコントロールと差がなく、卵巣重量も差がなかった。ところが、卵巣組織を組織学的検討をしてみると、コントロール卵巣では、目立つのはほとんどが、前胞状卵胞であったが、胎児期にVPAに暴露した雌ラットでは、明らかに初期胞状卵胞の数が増え、PCO形態をとっていた。これはPCOSのもう一つの原因が、胎児期に何らかの遺伝子がエピジェネティクな修飾を受けることであること示唆され画期的な研究成果となった。
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