研究実績の概要 |
葉酸は,細胞の発育機能に必須なビタミンB群であり発生・分化,臓器形成には重要な栄養素である. 2000年12月以降,本邦では妊娠を計画している女性への葉酸摂取の推進政策がすすめられ神経管閉鎖障害の発症リスクを集団として低減化することが期待されている. 本邦における葉酸摂取の推進状況を分析し,その効果を検討するとともに,発生分化過程におよぼす葉酸の影響を検討するために受精着床環境におよぼす葉酸の影響を検討した.すでに推奨政策が開始されて10年以上の年月が過ぎており,妊娠中の葉酸の重要性を認知している妊婦は約80%を超えており,かなり浸透していることが示された.一方,葉酸を妊娠前から積極的に摂取している妊婦は必ずしも高くはなく,初産約40%,経産婦約20%と低率であり,サプリメントで妊娠前から摂取する率は20%を前後するに過ぎなかった.さらに本邦における神経管閉鎖障害の発生率については1万出生児に対して二分脊椎の頻度は2011年5,6, 2014年5,1と近年の頻度には大きな変動はなく欧米に比して高値を示した. また葉酸は卵の酸化ストレスに関与することが明らかとなっているため,マウス卵の培養系における評価系を構築し,葉酸がマウス卵の成熟度に及ぼす影響を検討した.卵成熟過程には活性酸素種が多く発生するが,葉酸非存在下では過酸化水素添加により高率(90.9%)に卵が変性したが葉酸存在下では過酸化水素添加による卵の変性は低下し葉酸は卵子の成熟をレスキューした.したがって卵子成熟過程において葉酸には一定の効果が期待されることが示唆された. 葉酸は食物摂取でしか体内に存在することはできないが,とりわけ新たな生命の誕生となる期間においては極めて重要な栄養素であり,妊娠前からの摂取推進はなお一層有効な方法で進められる必要がある.
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