研究課題/領域番号 |
25462571
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研究機関 | 名古屋市立大学 |
研究代表者 |
鈴森 伸宏 名古屋市立大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (70326148)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 胎児染色体 / 流産 / 脱落膜 / 絨毛 / 母児間免疫応答 / 遺伝子多型 / 細胞分離 / 血管 |
研究概要 |
本研究は、胎児染色体異常症と母児間免疫応答からみた脱落膜での新生血管調節因子の制御機構の解明を目的とする。妊娠初期の自然流産の約70%に胎児染色体数的異常がみられ、今回自然流産の絨毛・脱落膜の染色体分析を行い、正常核型と異常核型を区別して検討を行った。SYCP3遺伝子は染色体不分離に関与する遺伝子で、遺伝子変異について、原因不明不妊症39名、卵巣性不妊症・早発閉経12名、卵管性不妊症13名と出産歴のある対象82名でシークエンス解析した。原因不明不妊症(難治性)1名でSYCP3 IVS7-16_19 delACTT変異が確認されたが、その被検者ではSYCP3変異は、エクソン7からエクソン9で変異はみられず、胎児染色体異常症を起こす原因遺伝子であることは証明できなかった。新生血管調節因子として凝固第XII因子が関与するかどうかについて検討した。第XII因子46C/T遺伝子多型のTアレルはFXIIa低下と血栓症の危険因子と考えられ、原因不明反復流産患者279人と分娩経験のある100人を対照としてFXIIaと46C/T遺伝子多型頻度を比較した。患者群においてFXIIa低下とTアレルが次回流産の危険因子であるかを調べるために年齢、流産回数による多変量解析を行った。横断研究でCT多型は反復流産の危険因子であった(OR,2.96;95%CI,1.44-6.07;p=0.003)が、コホート研究ではFXIIa低下もCT多型も次回流産の危険因子ではなかった。しかし、4分位解析において、中間位であるFXIIaが88-113%の群は、次回流産の危険因子であった。FXIIに関する最大症例数の本研究でFXIIa低下は、反復流産の危険因子ではないことが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
自然流産の絨毛・脱落膜の染色体分析では、絨毛と脱落膜の分離がしばしば困難であり、脱落膜での遺伝子解析をして、新生血管調節因子を調べることが難しく、染色体不分離に関与するSYCP3遺伝子と第XII因子46C/T遺伝子の多型解析を行った。凝固活性と遺伝子多型との関連は示すことができたが、他の因子を調べるため第V因子遺伝子多型解析を行っている。また、今年度からは施設内倫理委員会・ヒト遺伝子組み換え委員会の承認のもとでヒト絨毛脱落膜を採取して、細胞表面マーカー等を指標とし細胞分離法により分離することを始めている。胎児由来の脱落膜からフィーダー細胞となる線維芽細胞を樹立することを今後の目標とし、妊娠維持や母児間免疫応答について検討する。
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今後の研究の推進方策 |
深部静脈血栓症と第V因子活性低下を認めた日本人患者から同定された第V因子Nara変異(FV W1920R)と、中国人患者から発見された第V因子Hong Kong変異(FV R306G)について、母児間免疫応答という観点から妊娠維持における新生血管調節因子として関与するかを調べる。原因不明反復流産患者群と出産歴があり流産歴のない対照群を研究の対象としている。凝固第V因子活性は、第V因子欠乏血漿とPT試薬を用いた凝固一段法で測定する。また、胎児染色体異常の有無を確認したうえで、染色体不分離に関与しているCOHESINおよびBUB1遺伝子において遺伝子変異について全エクソンを包括するようプライマーを設定しダイレクトシークエンス法にて解析する予定である。 本年度は胎盤絨毛・脱落膜検体を用いて、絨毛細胞と脱落膜細胞を分離して細胞培養を行い、iPSを樹立できるかどうかを検討する。iPS細胞の培養には、アミノ酸や糖などの栄養源の他、細胞維持のための足場となるフィーダー細胞(胎児線維芽細胞)が必要であり、現在はマウスの胎児から取った線維芽細胞を使う方法が一般的となっている。しかし、臨床応用のためには、異種細胞であるのみならず未知病原体の感染等のおそれや品質管理の難しさなどが課題になっている。本研究では、母由来および胎児由来の両細胞成分を含むヒト胎盤組織から絨毛と脱落膜を細胞表面マーカー等を指標とし細胞分離法により分離することによって、1)胎児由来の脱落膜からフィーダー細胞となる線維芽細胞を樹立する。また、2)細胞バンクより入手可能なヒトiPS細胞との共培養により神経系細胞への分化誘導が可能かについて検討する。
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