研究課題
胎盤組織検体を用いて、絨毛細胞と脱落膜細胞を分離して細胞培養を行った。絨毛細胞は培養液中で濃度勾配をつけて細胞を回収して、分離培養は可能であった。EGFなどのサイトカインを添加して実験をしているが細胞増殖は充分ではなく、胎児由来の脱落膜からフィーダー細胞となる線維芽細胞を樹立は現時点では困難である。プロテインS(PS)欠乏症は、後期流産・死産の危険因子であることが明らかとなっている。また、PS徳島は日本人に特有の遺伝子変異であり、静脈血栓症の危険因子であることが示唆されている。今回我々は不育症患者におけるPS欠乏症とPS徳島について検討した。倫理委員会の承認と患者の同意を得て、原因不明不育症患者355人と出産歴があり流産歴のない女性101人を対照として、PS欠乏症とPS徳島の頻度を比較した。さらにPS抗原、活性、比活性(活性/抗原)低下(PS欠乏症)とPS徳島が次回流産の予知因子であるかを調べた。ダイレクトシークエンス法を行いPS徳島の判別を行った。PS活性は比色法、抗原量はラテックス凝集法を用いた。10人の患者が抗リン脂質抗体陽性であり検討から除外した。PS徳島は患者群9人(2.5%)、対照群1人(1.0%)であり有意差は認められなかった。PS活性は患者群(21.08±4.34μg/ml当量)と対照群(21.59±3.97)の間に有意差は認められなかった。また、次回妊娠成功率はヘパリン療法なしでPS徳島8人を含むPS欠乏症で100%(8/8)だった。絨毛染色体異常を除外して多変量解析した結果、PS活性低下群で89.7% (26/29)と正常群73.1% (106/145)より有意に良好だった。PS徳島、PS欠乏症は不育症の危険因子ではないと考えられた。我が国の多くの施設でPS測定、PS欠乏症に対する抗凝固療法が行われており、本研究成果を周知する必要があると考えられる。
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