研究実績の概要 |
最終年度は前年度までに絞り込まれた標的タンパクのうちVCAM-1に絞って研究を行った。子宮内膜症病変の進展を促進する因子としては、NF-κB が内膜症細胞で活性化されていること、腹腔内微小環境においてIL-6, IL-8, TGF-β、TNF-αなどのサイトカインが増加しており、腹腔内炎症とマクロファージが子宮内膜症の進展に関与していることが報告されている。前年度までの検討にて子宮内膜症間質細胞ではVCAM-1の発現が増加しており、VCAM-1中和抗体の添加により子宮内膜症間質細胞の腹膜中皮細胞に対する接着が減少し、遊走能が低下することは明らかとなったが、中和抗体以外に臨床応用可能なVCAM-1の発現経路に作用する薬剤を検討するにあたり、これらの炎症性サイトカインとNF-κBに着目した。VCAM-1のプロモーター領域にNF-κB結合部位が存在することが既知であったため、子宮内膜症間質細胞においてもVCAM-1がNF-κBの発現を調節しているかどうか検討した。子宮内膜症間質細胞においても、NF-κBはVCAM-1の発現を調節していた。そこですでに卵巣癌細胞株および卵巣癌モデルマウスにおいて使用経験のある、IKK阻害剤を子宮内膜症においても使用することとした。IKK阻害剤投与により子宮内膜症間質細胞においてVCAM-1の発現低下および子宮内膜症間質細胞の腹膜中皮細胞に対する接着減少と遊走能の低下が認められ、IKK阻害剤が子宮内膜症の進展を抑制する薬剤となりうる可能性が示唆された。 子宮内膜症間質細胞においてVCAM-1の発現が増加しており、これが子宮内膜症細胞の腹膜への接着に作用する因子の一つであることが明らかになった。VCAM-1を阻害するには中和抗体が有効であったが、NF-κBの活性化を抑制するIKK阻害剤でも同様の効果が確認できた。
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