研究課題/領域番号 |
25462602
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研究機関 | 横浜市立大学 |
研究代表者 |
宮城 悦子 横浜市立大学, 附属病院, 准教授 (40275053)
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研究分担者 |
宮城 洋平 地方独立行政法人神奈川県立病院機構神奈川県立がんセンター(臨床研究所), がん分子病態学部, 総括部長 (00254194)
山田 六平 地方独立行政法人神奈川県立病院機構神奈川県立がんセンター(臨床研究所), がん生物学部, 技幹 (30404974)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 卵巣癌 / 浸潤 / 転移 / 卵巣明細胞腺癌 / アネキシンA4 |
研究概要 |
本年度はまず,acidic-annexinA4 (acidic-A4)が顕著に優位な卵巣明細胞腺がん株OVTOKOのshRNAによるA4-KO(knock down)株とbasic-A4優位の明細胞腺がん株OVISEのA4-KO株での詳細な実験で,acidic-A4がプラチナム系の抗がん剤耐性に関わる一方で,basic-A4はパクリタキセル耐性に関与する可能性を示す結果を得た.更に,OVISE A4-KO細胞ではリソゾームマーカーのlysosomal-associated membrane protein 2 (LAMP2)の発現が極めて高く,かつ,A4-KOでその量が顕著に減少することも見出した.パクリタキセル耐性がアポトシスによる細胞死シグナルをオートファジーに変換する機構に関与することが報告されており(Ajabnoor GMA et al. Cell Death Disease, e260, 2012)大変興味深い. 一方,sirtuin familyに属するclass III HDAC が翻訳後修飾を介してacidic-/basic-A4の成因に関与する可能性の検討では,注目したSirt1の発現解析やニコチンアミドによるclass III -HDACの薬理学的抑制実験の再現性に乏しいことが判明した.そこでタンパク質自体で修飾の違いを解析するために準備を開始した.市販の抗体では明細胞腺がん細胞からannexinA4を免疫沈降(IP)出来ないので,まず,C末端にFLAGタグを付けたannexinA4 (A4-FLAG)発現ベクターを作製,293T細胞で発現させFLAG-M2抗体でIP出来る事を確認した.次にOVISE A4-KO細胞でA4-FLAGを発現させるため,shRNA抵抗性変異を導入したベクターを作製しタンパク質の発現に成功した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
プラチナム系薬剤と共に卵巣がん抗がん剤治療の主役であるパクリタキセルの耐性にbasic-A4が関与し,かつ,LAMP2を介する細胞死メカニズムのapoptosis to autophagy conversionが耐性機構の基礎となっている可能性が見出され,本研究の命題である明細胞腺癌の抗がん剤耐性克服戦略にsubtype特異的にannexinA4を介する新たな具体的な切り口を発見した. また,sirtuin familyに属するclass III HDAC が翻訳後修飾を介してacidic-/basic-A4の成因に関与する可能性の検討は予定通りに進まなかったが,これまで不可能だったannexinA4の免疫沈降をFLAGタグ抗体で成功,shRNA抵抗性A4-FLAGの産生にも成功し,組換えタンパク質を用いた詳細な検討の準備を完了した.
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度に準備を終えた発現ベクターを用いて組換えannexinA4タンパク質を作製し,acidic-/basic-A4の相違を突き止める.acidic-/basic-A4両者を発現するOVISE細胞のA4-KO細胞株にshRNA抵抗性変異を導入したA4-FLAG発現ベクターを導入,恒常的にA4-FLAGを発現する細胞株を樹立する.この細胞を大量に培養し,FLAG-M2抗体カラムを用いてA4-FLAGを精製する.精製したA4-FLAGタンパク質と2D-PAGEを用いて, acidic-/basic-A4を生む様々な翻訳後修飾の可能性を詳細に解析する.また,acidic-/basic-A4 FLAGを2D-PAGEで分離後それぞれゲルから切り出して,別々に質量分析を行い両者の相違を解析する.解析には学内のプロテオミクス解析を専門とする研究室の協力を得る.相違を生む原因ペプチド配列が予想出来ればmutagenesis等の分子遺伝学的手法を用いたアプローチも考慮する.相違が明らかに出来れば,より細胞生物学的な,また,臨床病理学的な研究を展開する. また,basic-A4がLAMP2発現誘導による細胞死メカニズムの転換を介してパクリタキセル耐性に関与する可能性については,OVISE細胞でのsiRNAによるLAMP2発現抑制や,OVISE-A4-KO細胞へのshRNA抵抗性A4-FLAG導入によるLAMP2発現とパクリタキセル耐性能の回復,などでより確実な関連性を証明する.適宜,cDNA microarray等による発現解析で抵抗性関連遺伝子のdiggingに努め,卵巣明細胞腺癌の抗がん剤耐性克服戦略の最適な分子標的を見極めるように研究を進める.
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次年度の研究費の使用計画 |
研究が順調に進行しており、対象症例が増加している。当初の見積もりであると年間数例であったが、関連病院からの研究参加も増加し、現在の2~3倍の症例数が見込まれる。平成25年度は在庫分で当該研究は充分であった。平成26年度に増加分も見込んで試薬を補充購入する予定。ANXA4陽性/Sirt1陰性群が細胞レベルでのANXA4- acidic優位群に相当しcarboplatin耐性群となる可能性が高い点に注目して発現動態と抗がん剤感受性などの臨床病理学的なパラメーターの相関を検討する。そのための免疫組織染色をおこなう抗体の追加購入の必要性もある。 ANAX4抗体clone D-2 (Santa Cruz Biotechnology, Santa Cruz, CA, USA)およびSIRT1抗体(Cell Signaling Technology 2310)の追加購入をおこなう予定である。Sirt1以外のsirtuin familyが関係する場合は、現存する適切な抗体が存在しないため in situ hybridizationによるmRNAの発現量の評価等も考慮に入れて研究を進める。
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