研究課題/領域番号 |
25462604
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研究機関 | 奈良県立医科大学 |
研究代表者 |
吉田 昭三 奈良県立医科大学, 医学部, 助教 (40347555)
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研究分担者 |
植栗 千陽 奈良県立医科大学, 医学部, 助教 (00526725)
大井 豪一 奈良県立医科大学, 医学部, 准教授 (10283368)
小林 浩 奈良県立医科大学, 医学部, 教授 (40178330)
赤坂 珠理晃 奈良県立医科大学, 医学部, 助教 (90526724)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 卵巣明細胞腺癌 / 発癌機序 |
研究概要 |
卵巣明細胞腺癌は、60%はI、II期の早期癌であるにも関わらずシスプラチンなどの白金製剤を中心とした化学療法に低感受性で、残存・再発病変のコントロールは極めて難しく、患者の予後やQOL を損なう場合が多い。この明細胞腺癌特有の性質には、癌の発生に至るプロセスが重要な役割を担っている可能性がある。このため明細胞腺癌の過剰鉄による発癌機序を明らかにすることは、新しい治療戦略、さらには予防方法の確立のために極めて意義深い。細胞周期の制御は正常な細胞に必須であるが、その機構の破綻は癌化や抗癌剤耐性につながるとされている。近年、細胞周期の異常が明細胞腺癌の抗癌剤耐性に関与する可能性について報告がなされた。我々は、明細胞腺癌に特異的に過剰発現している転写因子HNF-1betaが細胞周期の異常をもたらしていることを確認した。HNF-1beta陽性細胞では細胞周期の中でもG2期での持続的な停止をきたす。チェックポイント機構に作用していることが示唆される。チェックポイント機構は近年、癌に対する新たな治療戦略の分子標的として注目されている。このチェックポイントタンパクの阻害剤を使用することにより抗腫瘍効果の増強を目指している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
我々は、卵巣内膜症性嚢胞内の過剰鉄の活性酸素がDNAを損傷することにより、明細胞腺癌への発癌にいたると考えている。そこで、HNF-1beta を安定的にノックダウンした明細胞癌培養細胞TUOC1 と、HNF-1beta を過剰発現させた明細胞癌培養細胞ES2 に抗癌剤、紫外線、放射線など様々なDNA 損傷をあたえ、HNF-1betaの有無により細胞の生存率・DNA修復能、発現の変化する遺伝子群の検討を行った。その中でも変化が確認できたのは、ブレオマイシン、トポテシン、紫外線、放射線などの酸化ストレスが関与するDNA損傷であった。ブレオマイシンは金属イオンを補因子としてキレートし、分子状酸素を活性化することフリーラジカルを作ってDNAを損傷すると考えられている。卵巣内膜症性嚢胞内の過剰鉄によるDNA損傷のモデルになり得ると考えた。そこでブレオマイシンを様々な条件で添加することにより、HNF-1betaが細胞周期でもチェックポイントシステムに作用していることを明らかにした。DNA損傷のチェックポイントシステムのうちATR、ATM、chk1が主にHNF-1betaの有無によりそのリン酸化に変化をきたしていた。
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今後の研究の推進方策 |
HNF-1betaは明細胞腺癌細胞株においてchk1タンパクの持続的なリン酸化をきたしていることを明らかにした。チェックポイント関連タンパクであるATM・ATR・Chk1・Chk2・p53・BRCA1・cdc25C・cdc2の動態を調べることによりchk1 タンパクの過剰なリン酸化をもたらす因子について解明する。 DNA損傷応答の上流に位置するATM、ATRをノックダウンすることにより、chk1リン酸化の変化についてwesternで確認している。これによりchk1のリン酸化はATM、ATRともに介さない経路で制御されている可能性があり、タンパク分解・ユビキチン化によると考えられる。治療へ応用としてchk1 inhibitorを併用することにより抗腫瘍効果を高めることができるかを検討する。予備実験ではchk1 inhibitorと抗癌剤の同時投与ではFACSにて細胞周期の変化は認められるが、細胞死の増加はなかった。おそらくchk1 inhibitorの至適な投与のタイミングがあるようである。現在、ブレオマイシンの投与後の様々な時間をとりinhibitorの投与実験を行っている。明細胞腺癌の新たな治療戦略につなげたいと考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
試薬等の使用状況については概ね計画通りであったが、購入を計画していた画像解析用のパーソナルコンピュータを購入せず、既存のもので解析処理した。 既存のPCでは解析が円滑に進まない場合があったため、あらためて今年度に購入を計画する。
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