婦人科悪性腫瘍におけるリンパ行性転移のメカニズムを理解するために、腫瘍におけるリンパ管の分子基盤を解明することが重要と考えた。本研究では、ヒトリンパ管内皮細胞、婦人科癌細胞株を用いて、腫瘍細胞とリンパ管内皮細胞の分子機構を解析した。 ヒトリンパ管の研究のための実験資材として、小児の良性腫瘍であるリンパ管腫に着目し、インフォームド・コンセントの得られた症例のリンパ管腫組織を組織培養し、初代リンパ管内皮細胞を抽出・培養し、ヒトパピローマウィルス16型のE6、E7遺伝子およびヒトテロメラーゼ逆転写酵素(hTERT)遺伝子を導入して不死化細胞株を樹立した。この組織培養を介した初代培養および不死化の手技が確立できたため、異なるリンパ管腫組織からも不死化細胞株の樹立を行った。 癌の微小環境では炎症性サイトカインによって内皮細胞の接着因子の発現が上昇することが報告され、腫瘍細胞との接着に関与することが示唆されている。不死化リンパ管内皮細胞株の培養系に、TNFαを添加し、細胞接着因子E-selectin、ICAM-1、VCAM-1の発現が誘導されることをRNA、蛋白レベルで確認した。 癌細胞株および内皮細胞を用いた二次元の共培養は両者の分子生物学的な相互関係を検討する実験手法であるが、実際の癌細胞は組織の中で三次元の立体構造をとって存在している。子宮頸癌細胞株(SKG-2)を用いた培養実験において、三次元培養用のプレートを用い、至適な培養条件の下にSKG-2細胞がスフェロイドを形成することを確認した。 今後は、この腫瘍細胞のスフェロイドと確立されたリンパ管内皮細胞を用いて、婦人科癌細胞株とリンパ管内皮細胞の相互関係の仕組みを明らかし、得られた腫瘍・リンパ管の相互関係に関わる基礎的知見を集積し、悪性腫瘍のリンパ行性転移のメカニズムを明らかにしようとしている。
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