研究実績の概要 |
がんは宿主の免疫から逃避する事が知られている.ヒト卵巣明細胞腺癌(OCCC)では,免疫抑制性cytokineが免疫逃避に関わる事が知られているが,今回OCCCに特異的に発現する転写因子HNF-1bに着目し,HNF-1bが免疫逃避に関与し,その解除が可能であるかを検討した. HNF-1bを高発現するOCCC細胞株にshRNAを導入し発現抑制株を作成し, HNF-1bが低発現である細胞株に遺伝子導入によりHNF-1b強制発現株を作成した.これらの細胞株で,(1)HNF-1b抑制株と強制発現株におけるIL-6/8の産生と,転写因子NF-kBとSTAT3の活性化を比較検討した.(2)HNF-1b抑制株とcontrol株をヌードマウスに皮下移植し,血清中のIL-6濃度を測定し,脾臓,リンパ節および腫瘍組織から樹状細胞(DC)を採取し,BALB-cマウスのT細胞と共培養し,IFNgを測定した.(3)NF-kB/STAT3を阻害することが報告されているstatin製剤を担癌マウスに投与し,DCのT細胞活性化能に対する影響を検討した. (1)HNF-1bの発現抑制によりNF-kB/STAT3の活性が低下し,IL-6/8の産生量が減少した.一方,HNF-1b強制発現によりNF-kB/STAT3が活性化し,IL-6/8の産生量は増加した.(2) HNF-1b抑制株を移植したマウスでは血清中のIL-6濃度が有意に低下し,DCをT細胞と共培養した場合IFNγ産生が増加した.(3)statin製剤投与により,各組織から採取したDCをT細胞と共培養するとT細胞のIFNg産生が増加した. 卵巣明細胞腺癌において,HNF-1βはIL-6/8の産生を促進し,DCの機能抑制により免疫逃避に関与することが示された.またstatin製剤投与によりHNF-1βを阻害することで免疫逃避が解除される可能性があると考えられた.
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