研究課題
キネシンモータータンパク質ファミリーの1つであるkinesin spindle protein (KSP)を標的としたKSP阻害剤は、副作用の少ない、新たな機序の抗がん剤になることが期待される。我々はKSPに特異的かつ阻害活性の高い、カルバゾール誘導体構造をもつ新規KSP阻害剤を合成し、これら化合物を用いてヒト卵巣がんA2780に対する抗腫瘍効果をin vitroおよびin vivoで検討した。まず新規合成KSP阻害剤のうちin vitro抗腫瘍効果が最も力価が高いKPYB10602を見出したので、以降KPYB10602に絞り検討した。KPYB10602を担がんマウスに皮下投与したところ、経時的な腫瘍拡大を用量依存性に抑制し、体重は減少せず増加をみた。しかも腫瘍がほとんど消失した動物もみられた。一方正常マウスに微小管阻害薬を投与すると神経障害に伴う歩行障害がみられたが、KSP阻害剤では全くみられなかった。以上の結果は新規合成KSP阻害剤が、副作用の少ない、新たな機序をもった優れた抗がん剤になる可能性を示唆している。今回皮下投与で評価したが、剤型の工夫を加えることで標的臓器、細胞への到達性が上がり、効果の増大をもたらす可能性、また内服による効果が見いだせる可能性も考えられた。KPYB10602が細胞分裂期(mitotic phase;M期)の割合およびアポトーシスの割合を顕著に増加させることを、in vitroの検討から見出した。M期の停止は、セキュリン分解の抑制を伴い発現していた。さらにKPYB10602は、活性酸素産生、カスパーゼ分解を促進させることを明らかにした。これに関連するアポトーシス誘導タンパクBax-2の発現を増加させていることを見出した。以上より、新規合成KSP阻害剤が、KSP阻害によるM期の割合の増加、さらには下流のアポトーシス関連タンパクの発現、活性酸素産生の増加を介してアポトーシス死を誘導した、と考えられた。本研究が、今後の臨床研究に向けた基礎研究成果の1つになることが期待される。
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Biochem Biophys Res Commun
巻: 463 ページ: 222-228
10.1016/j.bbrc.2015.05.029.
http://www.marianna-u.ac.jp/