研究実績の概要 |
KGFプラスミド導入による、KGF遺伝子で誘導されるエピゲノム因子の経時的変化と上皮細胞増殖活性との関係を解析するために、動物モデルを用い実験をおこなった。 転写活性と密接な関係が知られるヒストンH3に注目し,H3K9, H3K14, H3K18, H3K23, H3K27のアセチル化及びH3K27のトリメチル化について特異抗体を用いて酵素免疫組織化学的に染色し、陽性細胞率は数値化し,二群間で統計学的解析を行なった。結果、コントロールではH3K18, H3K27AcおよびH3K27me3陽性核が基底層から有棘層に認められたのに対し,中耳真珠腫モデルではH3K18Ac, H3K27Ac陽性核は肥厚した上皮の全層に認められH3K27me3陽性核は表層に数個のみ認められた。統計学的解析でもH3K18Ac, H3K27Acレベルの有意な上昇, H3K27me3レベルの有意な低下(* p<0.0001)が認められている。コントロールにおいては基底層~有棘層の細胞を中心にH3K27me3とH3アセチル化が維持されており,分化多能性を持つ基底幹細胞から前駆細胞への分裂および分化細胞への分化に伴う正常の修飾パターンを示していると考えられる。一方で中耳真珠腫モデルではH3K27me3とヒストンH3アセチル化の局在の乱れが起きており,基底幹細胞もしくは前駆細胞の異常増殖および分化阻害にこれらの修飾が寄与していることが示唆される。 KGFR蛋白とヒストンH3修飾の二重染色を行い、局在が一致するヒストンH3修飾因子を同定した。また,上皮細胞マーカー(抗CK14抗体、抗CK10抗体)にて免疫染色を行い,上皮細胞の分化についても検討した。結果、中耳真珠腫モデルではKGFR発現が上皮層全層に認められ,同部位はCK14陽性であり,H3K27Ac陽性核を多数認めている。中耳真珠腫モデルに於いて上皮細胞はKGFRを発現し,未分化な状態すなわち幹細胞もしくは前駆細胞に保たれていると考えられ,このKGFRの発現にヒストン蛋白アセチル化修飾が寄与していることが示唆された。
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