近年エピゲノム修飾による遺伝子発現制御が慢性炎症疾患で報告されている。中耳真珠腫は慢性炎症疾患であり,上皮異常増殖への様々なサイトカインの関与が報告されている。我々は角化細胞増殖因子(KGF)とKGF受容体(KGFR)の発現が中耳真珠腫増殖および再発との有意相関を示し,真珠腫形成に関与する可能性を示唆してきた。今回,KGFRを介した中耳真珠腫形成について,転写活性を上昇させるヒストンアセチル化の関与に焦点をあてて検討した。 今回の解析では,ヒストン蛋白アセチル化修飾が中耳真珠腫病態の一端をになっており,特にヒストンH3K27のアセチル化レベルの上昇がKGFRの発現に何らかの相関を示す可能性が示唆された。 ヒストンH3K27Acはアクティブなエンハンサーマークとされており,クロマチンを緩めて,エンハンサー領域に転写因子を結合させ,転写活性を促すとされている。中耳真珠腫組織でのKGFRの恒常的発現にヒストン蛋白修飾の変化が関与していると考えられる。 また,近年抗がん剤とエピジェネティック薬の併用療法による抗腫瘍作用増強が明らかにされている。真珠腫性中耳炎の補助療法として核酸謝拮抗薬である5-fluorouracil (5-FU)を用いた保存療法に関する研究が散見されるが,これまでに我々は5-FU真珠腫細胞増殖抑制効果へのKGF/KGFRパラクライン機構関与の可能性を示した。今回、5-FU軟膏治療後の中耳真珠腫組織を用いた検討で、ヒストンH3アセチル化レベルが下がる傾向を得ている。しかし,正常皮膚での結果と比較するとヒストンH3アセチル化レベルは高く,5-FUを用いた保存療法にエピジェネティック薬を併用することでより効果的な保存療法が行える可能性が示唆されるような結果を得つつある。
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