研究課題/領域番号 |
25462651
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研究機関 | 奈良県立医科大学 |
研究代表者 |
山中 敏彰 奈良県立医科大学, 医学部, 准教授 (90271204)
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研究分担者 |
和田 佳郎 奈良県立医科大学, 医学部, 講師 (80240810)
岡本 英之 奈良県立医科大学, 医学部, 助教 (80316075)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 平衡 / めまい / リハビリテーション / 前庭代償 / 感覚代行 / 舌 |
研究概要 |
前庭機能が完全に障害されると、平衡系の回復機構(代償機転)は作働せず平衡障害は存続する。今回、このように前庭代償が停止した症例に対して、前庭覚に代わる感覚(舌触覚)を用いてバランス情報を伝達する、前庭代替装置を用いる感覚代行治療を試みた。本装置は頭位の傾きを感知する加速度計を包埋した微小電極(100個)アレイとプロセッサーから構成され、加速度計からの情報をプロセッサーで電気信号に変換して電極に送るしくみになっている。本年度は、脳の可塑性が低下している高齢の前庭障害者8例を対象にして、代償機構が停止した状態でも、感覚代行が有効か否か調べた。 舌表面に電極アレイを置いて、舌の触覚で信号がセンターリングされるようにバランストレーニングを対象に対して試行した。この感覚代行トレーニングを8週間行い、日常のバランス支障度を表すDizziness Handicap Inventory(DHI)と静的および動的な体平衡機能を表す重心動揺速度およびFunctional Gait Assessment (FGA)を用いて評価した。感覚代行トレーニングにより、バランスパフォーマンスは全対象者(8例)ともよくなくなった。各評価項目の平均値でみてもDHIは54.2から40.8に、重心動揺速度は5.2cm/secから3.3cm/secに、FGAスコアは14から22に、それぞれ改善を示した。感覚代行技術を駆使した本装置が、完全に脱落した前庭機能にとって代わる作用を脳にもたらすことが分かった。実際、姿勢制御において、感覚系、運動系、認知系など複数の神経システムが相互に関係する統合中枢に前庭神経核が第一にあげられる。したがって、舌触覚によって入力されたバランス情報は前庭中枢の第一次中継核である前庭神経核に伝達される可能性が示唆される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
中枢前庭の可塑(前庭代償)機構が停止した対象者の獲得が困難であったことと、対象は高齢者であったためトレーニングを開始しても最後まで完遂できるケースが少なかったことが理由に挙げられる。
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今後の研究の推進方策 |
感覚代行が生じるメカニズムを調べるための基礎研究を行う前に、実際に高齢の前庭障害者に対する効果を十分に検証する必要がある。前庭中枢において新しい感覚入力がリセットされるか否か、完全に前庭中枢の可塑性(前庭代償)が停止した状態で調べる必要があるからである。さらに多くの対象者に対する感覚代行トレーニング効果を集積して信頼あるデータを検出する予定である。そのうえで、触覚系と前庭系の中枢での機能的リンケージを調べるため、舌への電気刺激を行い、三叉神経刺激によって誘発されるアミノ酸などの神経伝達物質の遊離量を前庭神経核から測定することにより、感覚代行のメカニズムを解明する。
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次年度の研究費の使用計画 |
実験器具やデータ解析が既存の設備や器具、コンピュータ、ソフトウェアで行うことができたためである。また、予定していた海外出張などが取りやめられたため、出張旅費などを使用する機会が減少した理由による。 VTR解析装置、コンピュータおよびソフトウェアなど実験器具、コンピュータおよび周辺機器の購入を計画している。 学会発表のための出張を国内外で行う予定である。 研究協力者(被験者)への謝金を支払う。
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