研究実績の概要 |
本年度は当初の計画通り、早期老化と早期老人性難聴を示すモデルマウス(SAMP1)を用いて、胸腺移植の全身免疫機構と内耳機構への影響を見た。 1)昨年度に使用した実験群において、マウス側頭骨の連続切片を作製し単位面積当たり(10,000マイクロ平方メートル)の螺旋神経節細胞を計測した。この結果、聴力検査(聴性脳幹反応、ABR)の結果と同様、2、6、(11〜)12ヵ月齢へと加齢が進むに従って螺旋神経節細胞数が減少する(加齢性蝸牛障害)のに対し、胎児胸腺を移植された群(12ヶ月齢)では、6ヶ月齢の群より細胞数が多く認められた。 2)新たに胎児胸腺移植群を作製し、無処置マウス群と比較した。移植群では無処置群に比しCD4+リンパ球が有意に増加していた。我々は以前、若年マウスから採った脾CD4+リンパ球の静脈内接種により、SAMP1の難聴が予防されることを示した(Iwai, et al, J Neuroimmunol 2012)。したがって、移植胸腺から出たCD4+リンパ球が、同様に難聴消退に働いたと考えられる。また、このCD4+リンパ球において、無処置群ではIL-1受容体2型を持つCD121b+CD4+リンパ球や、FR4を持つFR4+CD4+リンパ球(Naturally occurring regulatory T cells、nTregs))の割合が増加していたことから、CD4+リンパ球のなかでもこれら2つの細胞群が、螺旋神経節を主とする蝸牛を障害するものと考えられた。 以上のごとく今回の研究により、難聴を治療する免疫細胞(CD121b-CD4+リンパ球およびFR4-CD4+リンパ球)と、進行させる免疫細胞(CD121b+CD4+リンパ球およびnTreg)を同定できた。
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