研究実績の概要 |
昨年に引き続き、真珠修正中耳炎の手術時に骨削開によって生じる骨パテを収集してRNAを抽出し、定量的RT-PCR法により破骨細胞のバイオマーカーを6種類に増やして測定した(RANK, TRAP, cathepsin K, OSCAR, calcitonin receptor, MMP)さらに破骨細胞の活性化因子であるRANKLについても同様の方法で測定した。対照として、真珠腫を伴わない慢性中耳炎の骨組織を用いた。その結果、真珠腫においていずれも増加していないことが判明した。 次に、真珠修正中耳炎の手術時に上鼓室外側壁を採取し、エタノール固定、Villanueva骨染色、methyl methacrylate包埋の後、非脱灰切片を作成し、偏光顕微鏡で観察した。対照として真珠腫以外の中耳疾患の上鼓室外側壁を用いた。その結果、いずれの標本においても破骨細胞は認められず、破骨細胞密度は正常腸骨に比べて有意に低いことが判った。 さらに表皮角質層の強度や透過性に影響すると考えられているイソペプチド結合、コルネオデスモシン、およびこれらの関連酵素の真珠腫組織における発現を免疫組織染色と定量的RT-PCRで調べた。対照組織として耳後部から採取した正常皮膚を用いた。その結果、イソペプチド結合とその形成を触媒するトランスグルタミナーゼ(type 1, 2, 3, 5)の発現は真珠腫と対照群との間で差がなかった。一方、コルネオデスモシンの発現は真珠腫において有意に低下していた。コルネオデスモシンの分解酵素である組織カリクレイン(type 5, 7, 14)、および組織カリクレインの阻害因子であるSPINK5には変化がなかった。 以上より、真珠腫の病態には破骨細胞はほとんど関与していないこと、真珠腫上皮の透過性の亢進や脆弱性にはコルネオデスモシンの産生低下が関与していることが示唆された。
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