研究課題
機能的結合とは相互相関解析から有意に同期して活動する神経細胞間の結合をいう。耳鳴患者の中枢機能的神経結合はまだ十分には解明されていない。安静時fMRIを用いて耳鳴患者の機能的結合を調べた。更に経頭蓋直流電気刺激(tDCS)刺激を行い、安静時fMRIにて中枢機能的結合が変化するか、また耳鳴症状に変化をもたらすかを検討している。tDCSは2面の電極を通して加えられる非侵襲性の大脳皮質刺激手段であり、陽極では神経細胞を脱分極させることにより局所の大脳皮質に対して興奮効果を与え、陰極では過分極が起こり抑制効果を与えることが出来る。聴覚野に当たるBA41とBA42のそれぞれ左右間の機能的結合値が、耳鳴患者群ではコントロール群に比べ、有意に低下していた。またコントロールに比べて、耳鳴患者では聴覚皮質と苦痛ネットワークである前帯状回とに有意な機能的結合を認めることが出来た。tDCS刺激によりコントロール群では、左右聴覚野間の強い機能的結合値は刺激後も維持されていた。予備研究であるが、耳鳴患者でtDCS刺激により左右聴覚野間の機能的結合値が有意に上昇している症例では、tDCS後に耳鳴賞状の有意な改善が認められた。耳鳴患者群では有意に左右聴覚野間の機能的結合が低下しており、何らかの聴覚障害による聴覚視床皮質発火リズム変調を示唆していると思われる。また耳鳴患者では聴覚野と苦痛ネットワークである前帯状回に有意な機能的結合を認め、耳鳴症状の出現に関与していると考えられる。耳鳴患者群でtDCSにより左右聴覚野機能的結合が強まった症例では、耳鳴苦痛度が改善しており、適切なtDCS適応症例の選択によりtDCS治療が聴覚野機能的結合を強くし、耳鳴を改善させる可能性が示唆された。また安静時fMRI検査による機能的結合は、耳鳴患者の中枢評価および治療効果評価の方法として非常に有用と考えられる。
2: おおむね順調に進展している
研究目的「聴覚異常感患者の脳を安静時fMRIにて調べ、その脳ネットワークを正常コントロールと比較し、その特徴を解明する」は、平成25年度の研究実施計画通り、おおむね順調に進展している。この目的に関して倫理審査を受け承認を得て、耳鳴患者17人と正常コントロール18人の登録を行い、安静時fMRIを撮影した。MRI撮影には1.5T臨床用MR装置(Philips社)を用いた。被験者をMRIテーブル上に仰臥位とし、標準ヘッドコイル内で頭を固定し、撮影中は開眼安静を指示した。安静時fMRIの解析にはMatlab上の機能的結合解析ソフトウェアConnを用いて前処理を行い、ブロードマン脳地図(BA)をそれぞれ関心領域(ROI)に設定し統計的処理を行った。耳鳴患者群では正常コントロールに比べて、有意に左右聴覚野間の機能的結合が低下しており、何らかの聴覚障害による聴覚視床皮質発火リズム変調を示唆していると思われる。また耳鳴患者では聴覚野と苦痛ネットワークである前帯状回に有意な機能的結合を認め、耳鳴症状の出現に関与していると考えられた。研究目的「正常コントロールに対し安静時fMRIモニタリング下でのtDCS聴覚伝導路可塑性を調べる」も、平成25年度の研究実施計画通り、おおむね順調に進展している。この目的に関しての倫理審査にて承認を得て、正常コントロール18人の登録を行いtDCSによる聴覚野刺激を行った。tDCS刺激はDC-Stimulator(NeuroConn社)を用いた。刺激部位は左後上側頭回(国際10-20法でTP7とC5の1/3点)を陰極刺激、右後上側頭回(TP8とC6の1/3点)を陽極刺激とし、刺激強度は1mAで、刺激時間は10分とした。正常コントロールではtDCS刺激により左右聴覚野の強い機能的結合は維持されることが分かった。これらの研究結果は国内学会および国際学会で発表した。
聴覚異常感(耳鳴)患者のtDCS治療前後の安静時fMRIを調査し、無作為割り付け試験でのtDCS治療とSham刺激と比較する臨床治験を行う。耳鳴の評価は耳鳴問診票、耳鳴のひどさについての自己評価(TSSw)、耳鳴の程度についての自己評価(TRSw)、耳鳴の日常生活への支障度に関する質問表(THI-12)をtDCS治療前、7日後に行う。tDCS治療後からは、耳鳴日記を14日間記載して頂く。また心理状態の評価のためにHospital anxiety and depression scale (HADS)をtDCS治療前、7日後、1ヶ月後、半年後に施行する。tDCS刺激はDC-Stimulator(NeuroConn社)を用い、刺激部位は左一次聴覚野を陰極刺激、右一次聴覚野を陽極刺激とし、刺激強度は1mAで、刺激時間は10分とする。Sham刺激は刺激強度を0mAとする。MRI撮影には1.5T臨床用MR装置を用い、撮影中は開眼安静を指示する。安静時fMRIの解析にはMatlab上の機能的結合解析ソフトウェアConnを用いて前処理及び統計的処理を行う。まず安静時fMRI1回目を撮影し、速やかにtDCS刺激を行い、また速やかに安静時fMRI2回目の撮影を行う。無作為割り付けは単純ランダム化にて行う。これらの研究結果から聴覚中枢の聴覚異常感への順応、代償、可塑性を安静時fMRIにて明らかにしバイオフィードバックとして聴覚リハビリテーションに利用する。またtDCSを加えた新しい聴覚異常感治療指針の確立を目指す。平衡障害においても、これまで平衡覚中枢機能を評価する方法はなく、安静時fMRIでの評価が平衡覚リハビリテーションのバイオフィードバックとしての役割が期待される。前庭障害の評価にはカロリック検査、VEMP、問診票を用い、前庭リハビリテーション前後に安静時fMRIを撮影し、その臨床応用を探る。
安静時fMRIの解析にはMatlab上の機能的結合解析ソフトウェアConnを用いて前処理を行い、ブロードマン脳地図(BA)をそれぞれ関心領域(ROI)に設定し統計的処理を行っている。安静時fMRI解析に人件費を予定していたが、適切な人材がいなかったため、昨年度は研究代表者自身が全てのfMRI解析を行った。それにより人件費が浮いて、次年度使用額が生じた。安静時fMRIの解析スピードを上げるため、今年度はfMRI解析に精通した人材を雇い、人件費を支払って解析を行う計画である。安静時fMRI解析から得られたそれぞれの機能的結合相関係数を統計学的解析のためフィッシャーのZ変換し機能的結合値として用いる。
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