本研究は次の2つのことを目的としている。①安静時fMRIを用いた耳鳴の客観的診断法の開発を目指した、②経頭蓋直流電気刺激(tDCS)を用いた聴覚リハビリテーションへの応用を目指した。 ①機能的結合とは相互相関解析から有意に同期して活動する神経細胞間の結合をいう。安静時fMRIは1995年にBiswalらが安静時脳活動の揺らぎから運動関連領域間の機能的結合の抽出を実証している。つまり安静時fMRIは、安静時の自発的脳活動に由来する複数の脳領域間の機能的結合の評価を行う手段である。無難聴耳鳴11人、難聴性耳鳴18人、健聴コントロール19人を対象に、安静時fMRI解析を行い、聴覚伝導路以外も含めた機能的結合を解析・検討を行った。聴覚関連領域の機能的結合につて、β値>0.2を閾値とした場合、健聴コントロールでは91%、難聴性耳鳴では83%、無難聴性耳鳴では66%が陽性であった。β値>0.5と厳しい閾値設定とした場合、健聴コントロールでは30%が陽性だったが、難聴性耳鳴では14%、無難聴性耳鳴では3%のみが陽性であった。 ②tDCSは2面の電極を通して加えられる非侵襲性の大脳皮質刺激手段であり、陽極では神経細胞を脱分極させることにより局所の大脳皮質に対して興奮効果を与え、陰極では過分極が起こり抑制効果を与える。健聴コントロール及び耳鳴患者に対しtDCS刺激を行い、安静時fMRIにて左右聴覚野の機能的結合が変化するか、また耳鳴症状に変化をもたらすかを検討した。tDCS刺激によりコントロール群、耳鳴患者群ともに左右聴覚野間の機能的結合値は有意な変化を認めなかった。しかしながら耳鳴患者群でtDCS刺激により左右BA42間の機能的結合値が0.2以上上昇している症例が6例あり、その6例ではtDCS後にTHI12点数の改善が認められた。
|