「黄色ブドウ球菌の定着・共生を発端に定着菌-鼻腔上皮細胞間で展開されるコミュニケーション応答により鼻腔環境でのアレルギー応答に変調をもたらす」という仮説の検証を行ってきた。 1.ヒト鼻腔上皮細胞株RPMI 2650が、LPS等TLRリガンドに対し低反応性を示すことは、細胞表層のTLR2、TLR4の発現が欠損、もしくは抑制されてことに由来する。一方、黄色ブドウ球菌は細胞内で認識される。細胞内PRRである、TLR3、TLR9のリガンド応答性を確認したが、グラム陽性菌認識に関わるNOD2のmRNA発現は欠損していた。 2.RPMI 2650の液相下培養、および気相液相界面培養での応答を比較し、気相液相界面培養下での応答性変化が観察された。mRNA発現解析では、液相培養下で恒常的発現した遺伝子に長期気相液相界面培養後、発現の低下、消失するもの、各種リガンド刺激後、発現量変化する遺伝子が観察された。長期液相気相界面培養により、RPMI 2650に分化誘導されたことを裏付ける結果であり、正常ヒト鼻腔上皮初代培養細胞との性状比較を進めている。発現量変化した遺伝子には、走化性因子やアレルギー応答関連を疑うサイトカインも含まれ、黄色ブドウ球菌菌体刺激とPRRリガンドで相反する遺伝子発現も観察され今後詳細な解析が期待される。 3. RPMI 2650は、professional貪食細胞と異なり、細胞表層に付着した菌体を極めて低効率に取り込むことしか出来ない。上皮細胞発信性のシグナル送出には菌体の細胞表層への接着特性が重要となる。また、鼻腔上皮に定着する菌体は長期の乾燥状態にさらされる。乾燥暴露された黄色ブドウ球菌はより乾燥耐性になり消毒薬抵抗性など表現型の変化と同時に上皮細胞への接着特性も変化することが明らかになった。接着特性と細胞刺激能の変化の解析を続けている。
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