我々はこれまでの研究で、鼻粘膜より採取した組織幹細胞に着目し、神経再生を目指してきた。日齢0-1日マウスの嗅粘膜を採取し、洗浄、細断後にメッシュに通して単細胞とした。得られた細胞を上皮成長因子 (EGF)、塩基性線維芽細胞成長因子 (bFGF)、無血清サプリメントB27を添加した培養液で培養することにより、1-2週間で細胞塊が得られた。これらの細胞は神経幹細胞マーカーNestin、Musashi-1、Oct-4を発現すること、分化誘導で神経細胞マーカーGFAP、b-tublin、GalC、を発現すること、鼻粘膜マーカーOMPを発現することにより、鼻粘膜由来で神経幹細胞様の性質を持つ嗅粘膜由来幹細胞であると考えられた。 次に、培養上清中の蛋白を網羅的に解析してこの細胞が発現する神経栄養因子、成長因子、サイトカインを探索した。EGF、bFGF、脳由来神経成長因子 (BDNF)、グリア細胞由来神経成長因子 (GDNF) の発現は認められなかったが、神経成長因子 (NGF) 、ガレクチン1 (galectin-1)、Growth-arrest specific 1、インスリン様成長因子結合蛋白2、インスリン様成長因子結合蛋白3 (IGF-BP2、IGF-BP3) 等の発現が認められた。 この細胞をマウスに移植するに当たって、足場として徐放性ハイドロゲル (Medgel) を用いた。マウス耳下腺の下層で顔面神経本幹を露出し、圧挫することにより顔面神経麻痺モデルマウスを作成した。マウスをコントロール群、Medgel群、幹細胞群、幹細胞+Medgel群の4群にわけ顔面神経麻痺の回復経過を観察した。顔面神経麻痺の回復は、幹細胞+Medgel群において最も顕著であった。
|