最終年度は前年度に引き続いて、中等症以上の嗅覚障害患者に対して、食べ方の指導による嗅覚刺激療法のうち二つの方法(A法:鼻腔からの刺激;B法:口腔からの刺激)の無作為比較試験を施行した。具体的には1日3回の食事の度にA法では食事を鼻腔に近づけて3回良くにおいを嗅いでから口に入れ、B法では食物を口に入れて少なくとも20回以上咀嚼し食物の香りを良く味わいながら食事するよう指導した。リハビリ開始時にトウモロコシスナックを用いて上記の刺激法の訓練を行なった。1ヶ月に1回、自己訓練状況を記録表により確認し、上記の食事法を指導した。嗅覚検査はリハビリ開始後に施行した。試験実施期間において特に有害事象は認めなかった。脱落例や記録表の記入が無かった症例を除外して検討した結果、3ヶ月間における平均自己施行率はA法が71%、B法が70%で有意差は認めなかった。またリハビリ開始3ヶ月後の嗅覚機能はA法、B法ともに明らかな改善は認めなかった。以上よりどちらの指導法でも一定期間継続可能であり、有害事象も生じないことが明らかになった。3ヶ月以降の治療成績については今後の課題である。その他、嗅神経の障害程度を画像評価する目的でタリウム-201経鼻投与とSPECT-CT、MRIを用いたオルファクトシンチグラフィを施行した。これまでの研究結果と同様に嗅覚障害患者全般でタリウム-201の嗅球移行度の低下を認めた。動物実験では嗅上皮を傷害するメチマゾールを投与した嗅神経障害モデルマウスにおける、タリウム-201嗅球移行度の低下が明らかとなった。
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