研究実績の概要 |
IgA腎症は、糸球体メサンギウム領域へのIgAの過剰な沈着によって生じる慢性糸球体腎炎である。口蓋扁桃の摘出、ステロイドのパルス療法が主な治療法であるが20年で40%前後が腎不全に至るとの報告もあり詳細な病態の解明と新たな治療法の開発が急務である。IgAは粘膜免疫の中心的な役割を担っているが分子内のヒンジ部に糖鎖が結合することにより安定化されておりこの糖鎖の異常はIgA分子全体の構造や性質に影響を与える。IgA腎症患者において糖鎖不全IgAが過剰に発現しておりこれがメサンギウム領域へのIgAの沈着に関与する。糖鎖不全IgA産生のメカニズムは不明であるが口蓋扁桃の摘出によって糖鎖不全IgAが減少することから糖鎖不全IgAの産生には口蓋扁桃が関与することが疑われる。本研究の目的はIgA腎症患者における糖鎖不全IgAの産生に口蓋扁桃が関与しているかどうかを明らかにすることである。口蓋扁桃サンプルを用いた検討の結果、IgA腎症患者の口蓋扁桃の単核球におけるbcl-2の発現が著明に増加しており末梢血単核球においてもbcl-2の発現が著明に増加していることを明らかにした。これらの結果より糖鎖不全IgAの産生にはbcl-2が関与している可能性が示唆された。糖鎖不全IgA産生へのbcl-2の関与を検討した。LPS、H. Parainfluenzae外膜抗原(HP抗原)で末梢血単核球を刺激し上清中に産生されたIgA及び糖鎖不全IgAをELISAで測定した。その結果LPS, HP抗原で刺激をした末梢血単核球においてIgA産生が誘導されたがbcl-2を抑制することによって糖鎖不全IgA産生が抑制は確認できなかった。bcl-2による糖鎖不全IgA産生を証明することはできなかったが、bcl-2がIgA腎症の病態に関与する可能性は高く、bcl-2の補体産生誘導によるIgA腎症の病態形成への関与なども考えられる。
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